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相続コラム

第58回相続コラム 忘れてませんか?相続放棄しても受け取れるもの お墓・仏壇、保険金、遺族年金など

故人が残した多額の借金を相続しないためには、相続放棄を検討することになります。相続放棄をすると、借金などの負債を相続することはなくなりますが、同時に、他の遺産を相続することもできなくなります。相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も、すべて相続しないという選択だからです。ただし、いくつかの財産・権利については、相続放棄の影響を受けずに、たとえ相続放棄を選択したとしても、受け取ることのできる財産、引き継げる権利があります。今回のコラムでは、相続放棄をしたとしても、受け取れるもの・引き継げるものについて解説したいと思います。

 

お墓や仏壇など

相続放棄を検討されている方から、よく相談されるのが、「先祖代々のお墓はどうなるのでしょうか」や「仏壇や位牌なども手放す必要があるのでしょうか」という内容です。

結論から言いますと、相続放棄をしたとしても、お墓や位牌などは、受け継ぐことが可能です。

お墓や位牌、仏壇・仏具などは、法律上、祭祀財産と呼びます。これらの祭祀財産については、法律上特別な規定があり、相続財産=遺産とは別の扱いとなっております。つまり、相続放棄をしたとしても、祭祀財産はその効果を受けずに、受け継ぐべき人が引き継ぐことになります。

民法第896条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、…、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

例えば、慣習上、代々、祖先のお墓や位牌などを、長男が継いできたのならば、たとえ長男が相続放棄をしたとしても、自身の亡き父から、祭祀財産を引き継ぐことができます。

 

生命保険金

自身が生命保険の受取人として指定されている場合には、相続放棄をしたとしても、生命保険金を受け取ることができます。

生命保険金を受け取る権利は、亡くなった人の遺産=相続財産ではなく、保険会社との生命保険契約によって発生する受取人固有の権利だからです。このことは、受取人が「相続人」と記載されていても同様です。

詳しい解説は、
第52回相続コラム 相続放棄した場合に生命保険を受け取ることができるのか
をご覧下さい。

 

遺族年金

遺族年金とは、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が、亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」があり、亡くなった方の年金の加入状況などによって、いずれかまたは両方の年金が支給されます。

遺族年金は、被保険者の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的としたものであり、遺族がその固有の権利にもとづいて受給するもので、被相続人の遺産とは考えられていません。

つまり、生命保険金と同様、遺族年金を受け取る権利は、相続によって取得すべき権利=遺産ではなく、遺族固有の権利なため、相続放棄をしたとしても、その権利を失うことはありません。

 

未支給年金

故人が受け取るべきであった未支給の年金は、故人に帰属していた権利であり、相続放棄をすると相続人が受け取ることはできなくなりそうにも思えますが、こちらも特別な法律の定めがあるため、相続放棄とは無関係に、一定の条件を満たす相続人は、受け取ることが可能です。

未支給年金は、死亡した年金受給者の「配偶者、子、父母、孫、祖父母、または兄弟姉妹」であり、かつ「死亡の当時に生計が同一だった方」であれば受給することが可能です。

国民年金法第19条1項
年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。

厚生年金法第37条1項
保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。

 

その他相続放棄しても受け取れる財産

上記の財産の他にも、健康保険に加入していた方が亡くなった際に、その方の埋葬を行った人に支給される葬祭費・埋葬料や、勤めていた会社の規定によって遺族に支払われる死亡退職金等があります。葬儀の際の香典も、相続放棄した方が喪主であれば受け取ることができます。

故人の遺産を構成するものではなく、遺族に対して支給される、遺族固有の権利は、基本的には相続放棄によって影響を受けることはなく、そのまま受け取ることが可能です。

 

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相続放棄の手続きは、家庭裁判所に申述するという面倒な手続きを要したり、相続開始後3ヶ月以内という短い期間制限があります。短期間で、遺産を調査したり、複雑で面倒な手続きを行い、また、漏れなくもらえる権利を請求するというのは、遺族にとって大きな負担となります。

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