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相続コラム

第212回相続コラム 相続財産に含まれないもの|一身専属権の整理

大切な親族が亡くなり、葬儀や各種の手続きに追われるなかで、「故人の預貯金や不動産以外に、年金や生命保険金、お墓や仏壇、借りていた家の契約はどうなるのだろう」と戸惑っている方は多いのではないでしょうか。「相続放棄を考えているけれど、生命保険金を受け取ったら放棄できなくなるのでは」「身元保証人になっていた場合、その責任まで引き継ぐのだろうか」といった不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。

実は、亡くなった方に関するものがすべて相続の対象になるわけではありません。その人だけに結びついた権利や義務は「一身専属権(いっしんせんぞくけん)」と呼ばれ、原則として相続されないと考えられています。ただし、一身専属権に当たるかどうかの判断は、権利の種類によっては難しく、誤った理解のまま手続きを進めると、思わぬ不利益を受ける可能性があります。

今回のコラムでは、相続財産に含まれないものを整理しながら、一身専属権とは何か、相続放棄・遺産分割・相続税の申告とどう関わるのか、負債や保証債務の扱い、専門家に相談すべき目安について、できるだけ専門用語を使わずに解説します。

一身専属権とは何か|相続されない権利と義務

「その人だけのもの」は引き継がれないのが原則

相続では、亡くなった方のプラスの財産(預貯金、不動産、株式など)だけでなく、借金などのマイナスの財産も、原則として相続人が引き継ぎます。しかし、「その人本人でなければ意味がない」「その人の個人的な事情に深く結びついている」権利や義務は、引き継ぐことになじみません。これが一身専属権です。

代表的な例として、次のようなものが挙げられます。

  • 年金を受け取る権利:亡くなった本人が受け取る権利そのものは、原則として相続されません。
  • 扶養を受ける権利・扶養する義務:本人と家族との関係に基づくため、相続の対象にはならないと考えられます。
  • 身元保証人としての地位:就職時などの身元保証は、原則として本人の死亡により終了すると考えられています。
  • 雇用契約上の地位や、専門的な仕事を任される義務:たとえば本人の技能を前提とした契約などです。
  • 使用貸借(無料で借りる契約)の借主の地位:親族間で無償で土地や建物を借りていた場合などが該当する可能性があります。

相続財産に「含まれない」ものと「含まれる」ものの違い

一身専属権以外にも、法律上の仕組みから相続財産とは別扱いになるものがあります。判断に迷いやすいものを整理します。

  • 生命保険金:受取人が指定されている場合、受取人自身の固有の財産とされるのが一般的で、遺産分割の対象にならないと考えられます。ただし、相続税では「みなし相続財産」として課税対象になることがあります。
  • 死亡退職金:会社の規程などで受取人が定められている場合、遺産分割の対象外となる可能性があります。こちらも相続税では課税対象になることがあります。
  • 遺族年金・未支給年金:遺族年金は遺族固有の権利です。未支給年金も、法律で定められた遺族が自分の権利として請求するものと整理されます。
  • 墓・仏壇・祭具:「祭祀財産」と呼ばれ、通常の遺産とは別に、慣習や指定により祭祀を主宰する方が承継します。相続税もかかりません。
  • 賃借権(借家・借地):これは一身専属権ではなく、原則として相続人が引き継ぎます。「住んでいた賃貸住宅の契約は終わる」と誤解されがちですが、注意が必要です。

見落としやすいリスク|相続放棄・遺産分割・相続税との関わり

相続放棄をする場合に気をつけたい点

相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったものとして扱われます。ただし、生命保険金や遺族年金は、受取人固有の権利と考えられるため、相続放棄をしても受け取れる可能性があります。一方で、故人の預貯金を引き出して使ってしまったり、不動産を処分したりすると、「相続を承認した」とみなされ、放棄が認められなくなるおそれがあります。

また、相続放棄の手続きは、原則として「自分が相続人になったと知った時から3か月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があります。何が遺産に当たり、何が当たらないのかを見誤ったまま期限が過ぎてしまうと、取り返しがつかなくなることもあります。

遺産分割と相続税の申告での扱い

遺産分割協議の対象になるのは、基本的に相続財産に含まれるものだけです。生命保険金や死亡退職金は話し合いの対象外であっても、相続人間の公平感に影響し、争いの火種になる場合があります。こうした背景を踏まえて話し合うことが大切です。

相続税では、民法上の相続財産でなくても、生命保険金や死亡退職金が「みなし相続財産」として課税対象になることがあります。いずれも一定額まで非課税枠が設けられていますが、枠を超える場合や、相続放棄をした人が受け取る場合には扱いが変わる可能性があります。反対に、墓や仏壇などは原則として課税対象になりません。「遺産ではないから申告不要」と思い込まず、税理士や弁護士に確認することをおすすめします。

負債や保証債務はどうなる?|注意したいマイナスの引き継ぎ

借金や保証債務は原則として相続される

一身専属権は相続されませんが、借金などの金銭的な義務は、原則として相続人が引き継ぎます。とくに注意が必要なのが、故人が他人の借金の連帯保証人になっていた場合です。この保証債務は、金額が確定していれば相続の対象になると考えられています。

一方、先に触れた就職時などの身元保証は、原則として相続されないと考えられています。ただし、すでに具体的な損害賠償責任が生じていた場合などは扱いが異なる可能性があるため、一律に判断するのは危険です。また、会社の事業資金の根保証(継続的な取引についての保証)などは、内容により相続の可否や範囲の考え方が変わるため、契約書の確認が欠かせません。

借金の有無が分からないときの対応

「借金があるかもしれないが、はっきり分からない」という場合には、次のような調査が役立ちます。

  • 預貯金通帳、郵便物、督促状、契約書類などの確認
  • 信用情報機関への開示請求による借入状況の確認
  • 金融機関への残高証明書・取引履歴の請求

調査に時間がかかりそうな場合は、家庭裁判所に申立てをして、相続放棄の判断までの期間を延ばしてもらう方法もあります。また、プラスとマイナスの財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ「限定承認」という選択肢もあります。どの方法が適しているかは状況により異なります。

専門家に相談すべき目安と札幌での備え

こんなときは早めに弁護士へ

次のようなケースでは、自己判断で進めず、早めに相談されることをおすすめします。

  • 借金や保証債務があるかもしれず、相続放棄をするか迷っている
  • 相続開始から時間が経ち、3か月の期限が近づいている
  • 生命保険金や死亡退職金を受け取る予定で、放棄との関係が分からない
  • 賃貸住宅、使用貸借、事業に関する契約など、引き継ぐか判断しにくい権利がある
  • 墓や仏壇の承継をめぐり、親族間で意見が分かれている
  • 遺産の範囲について、相続人同士で認識が食い違っている

北海道・札幌ならではの事情

北海道では、広い土地や農地、山林、遠方にある実家など、管理や処分が難しい財産が見つかることも少なくありません。冬場は現地確認がしづらく、財産の全体像の把握に時間がかかることもあります。また、札幌に住みながら道内各地や道外の実家の相続を担当する方も多く、手続きの負担が大きくなりがちです。早めに専門家と状況を整理しておくことで、期限や手続きのミスを避けやすくなります。

おわりに

相続財産に含まれるかどうかは、「一身専属権かどうか」「受取人が指定されているか」「祭祀財産に当たるか」など、複数の視点から判断する必要があります。年金や生命保険金、賃借権、保証債務など、似ているようで扱いが異なるものも多く、ご自身だけで見極めるのは簡単ではありません。判断を誤ると、相続放棄ができなくなったり、思わぬ負債を負ったりする可能性もあります。

大切なのは、焦って手続きを進める前に、まず状況を整理することです。不安や迷いがあれば、早い段階で専門家に相談することで、選べる選択肢が広がる場合も少なくありません。

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