親や配偶者を亡くされ、相続手続きがひと段落したあと、「実家の不動産をどうしよう」と悩まれる方は少なくありません。特に、ご自身がすでに別の場所で生活されている場合や、北海道・札幌の実家を離れて本州で暮らしているような場合には、維持管理の手間や固定資産税の負担から、「思い切って売却しようか」と考えるケースも多いのではないでしょうか。
しかし、不動産を売却するとなると、「税金はどうなるの?」「思ったより手元にお金が残らないと聞いたけど……」という不安が生じることもあるかもしれません。相続した不動産を売却した場合には、譲渡所得税という税金が発生する可能性があり、その計算方法や特例の活用によって、納税額が大きく変わることがあります。
今回のコラムでは、相続した不動産を売却したときにかかる譲渡所得税の基本的な仕組みと、節税に役立つ可能性がある「取得費加算の特例」について、法律知識がない方にもわかりやすく解説します。税務の観点からも相続を理解しておくことで、売却後に「こんなはずじゃなかった」という事態を防ぐ一助になれば幸いです。
相続した不動産を売却すると「譲渡所得税」がかかる
譲渡所得税とはどのような税金か
不動産を売却して利益が出た場合には、その利益(譲渡所得)に対して所得税と住民税が課されます。これを総称して譲渡所得税と呼びます。相続で取得した不動産も、売却すれば当然この課税対象となります。
譲渡所得は、次のような計算式で求められます。
- 譲渡所得=売却価格 −(取得費+譲渡費用)
ここでいう「取得費」とは、その不動産を取得したときにかかった費用のことです。相続した不動産の場合、被相続人(亡くなった方)がその不動産を購入したときの代金や、購入にかかった諸費用が取得費になります。「譲渡費用」とは、売却時の仲介手数料や測量費など、売却のためにかかった費用です。
取得費がわからない場合のリスク
ここで多くの方がつまずくのが、「被相続人が何十年も前に購入した不動産の取得費がわからない」というケースです。古い売買契約書が見当たらない、当時の領収書がない、といった状況は珍しくありません。
取得費が証明できない場合、税法上のルールでは「売却価格の5%」を取得費とみなすこととされています(概算取得費)。例えば、2,000万円で売却できた場合、取得費はわずか100万円とされ、残りの1,900万円近くが課税対象になってしまう可能性があります。これは非常に大きな税負担につながりかねません。昔から札幌市内に所有していた土地や建物なども、当時の購入価格の証明が難しい場合があり、注意が必要です。
「取得費加算の特例」とはどのような制度か
特例の仕組みと概要
相続した不動産を売却する際に活用できる可能性がある制度のひとつが、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(いわゆる取得費加算の特例)です。
この特例は、相続または遺贈によって取得した財産を一定期間内に売却した場合に、相続税として納付した金額の一部を取得費に加算できるというものです。つまり、売却時の利益を計算する際に、支払った相続税の一部を「上乗せコスト」として差し引くことができ、結果として課税される譲渡所得が減少する可能性があります。
具体的には、加算できる相続税額は次の計算式で算出されます。
- 加算できる相続税額=相続税の総額 ×(売却した不動産の相続税評価額 ÷ 相続税の課税価格の合計額)
なお、加算できる金額は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた残額が上限となります。
特例を使うための主な要件
この特例を適用するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。主な要件は以下のとおりです。
- 相続または遺贈によって取得した財産であること
- その相続に対して相続税が課税されていること(相続税を実際に納付していること)
- 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に売却していること
- 確定申告で特例の適用を申請すること
ポイントは、相続税がかかっていない場合(基礎控除の範囲内に収まっている場合など)は、この特例を利用できないという点です。また、売却のタイミングが「相続税申告期限から3年以内」であることも重要な条件となっています。期限を過ぎてしまうと特例が使えなくなりますので、売却を検討されている方は早めに動き出すことが大切です。
特例を活用する際の注意点と実際の対応
税理士・弁護士への早期相談が重要
取得費加算の特例は、うまく活用できれば譲渡所得税の負担を大きく軽減できる可能性があります。一方で、計算が複雑であったり、他の特例(例えば、居住用財産の3,000万円特別控除など)との選択や併用の問題が生じたりすることもあり、専門家のサポートなしに正確な判断をするのは難しい場面が多いと思われます。
特に、相続税の申告をどのように行ったか、相続財産の内容や評価額がどうなっているかによって、加算できる金額が変わります。相続税の申告を担当した税理士と連携しながら進めることが、スムーズな対応につながると考えられます。
弁護士に相談すべきケースとは
「不動産の売却は税理士の領域では?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに税務申告そのものは税理士の業務ですが、相続した不動産の売却にあたっては、遺産分割の内容や名義変更(相続登記)が完了しているかどうか、共有状態の解消が必要かどうかといった法的な問題も絡んでくることが少なくありません。
例えば、相続人が複数いて不動産が共有状態になっている場合、売却するためには共有者全員の同意が必要です。また、遺産分割がまだ済んでいない状態では、そもそも売却手続きを進められない場合があります。こうした法律的な問題を整理するうえで、弁護士への相談が有効な場合があります。
また、相続人同士で売却方針や売却益の分配をめぐってトラブルが生じているケースでも、弁護士が間に入ることで円滑な解決につながる可能性があります。一人で抱え込まずに、早めに専門家へ相談されることをお勧めします。
おわりに
相続した不動産の売却は、手続きの煩雑さだけでなく、予想以上の税負担に驚かれる方も多い場面です。しかし、取得費加算の特例など適切な制度を活用することで、負担を軽減できる可能性があります。大切なのは、「売却を決めてから慌てて動く」のではなく、相続が発生した段階から全体のスケジュールを見通して、必要な専門家に相談しながら進めていくことです。
また、不動産の売却に向けて名義変更や遺産分割協議を進める必要がある場合、思いのほか時間がかかることもあります。特に北海道・札幌のように広い土地や農地、山林などを相続するケースでは、権利関係の整理に専門的な対応が求められる場面も少なくないかもしれません。
当事務所では、相続に関するご相談を随時受け付けております。初回相談は無料ですので、一人で悩まずにまずはお気軽にご連絡ください。遺産分割や相続手続き、相続トラブルの解決など、経験豊富な弁護士があなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。










