本来の相続人が、相続人であると称する人により相続権が侵害されている場合、どのようにしてその侵害を取り除き、自己の権利を回復すればいいのでしょうか。今回のコラムでは、相続人と称する者から真正な相続人が権利を回復するための相続回復請求権について解説したいと思います。
相続回復請求権とは
相続回復請求権とは、本来相続権を有する、真正な相続人が、相続人であると称して相続権を侵害している者に対し、自分が正当な相続人であることを主張してその侵害を排除し、相続権の回復を請求する権利のことをいいます。
簡単に言うと、相続回復請求権は、真正な相続人が、相続人として振舞っている、いわばニセモノの相続人から、遺産等を取り返す権利と言えます。
相続回復請求権を行使できる人
相続回復請求権を行使できる人は、正当な相続人、つまり真正な相続人となります。
真正な相続人から相続分を譲り受けた相続分の譲受人や包括受遺者も、真正な相続人に準じる者として、相続回復請求権を行使することができます。また、遺言執行者や相続財産管理人も、その職務の遂行上必要となるため、相続回復請求権の行使が可能とされています。
相続回復請求権を行使する相手
相続回復請求を行使する相手方は、相続人として振舞い、相続人の権利を侵害している者となります。この者を専門用語で表見相続人と言います。
表見相続人の例として、下記のような者が該当します。
●相続欠格・廃除により相続権を失っている(元)相続人
●事実と異なる出生届や認知届、無効な養子縁組により、本来は被相続人との間には親子関係がないにも関わらず、相続人として振舞っている者
●偽装結婚などの無効な婚姻によって配偶者となっている者
●自身の相続分を超えて相続権を主張し、遺産を占有している共同相続人
上で挙げられた者のように、占有管理する相続財産について、自己に相続権があるものと信じるべき合理的な事由がある者のみが表見相続人となります。
仮に、全く無関係の赤の他人が、遺産を占有している状況があった場合には、そのような占有者は、単なる不法占有者にあたりますので、相続回復請求権ではなく、通常の妨害排除請求や返還請求などで対応します。また、表権相続人からの譲受人がいた場合にも、相続回復請求権の相手方とはならないため、個別に財産の取戻しを行います。
余談ではありますが、相続回復請求権の相手方である表見相続人にあたる者は、非常に狭く限定的であるため、実務上、相続回復請求が問題となるケースは稀となります。
相続回復請求権で注意すべき短い時効
相続回復請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年、または、相続開始の時から二十年で時効によって消滅します。
相続回復請求権には、上記のような短い期間の時効があるので注意が必要です。
例えば、土地を不法占拠されており、その不法占拠者に対して所有権に基いて、物件の明け渡しを行う際には、所有権が時効によって消滅するということはないので、半永久的に妨害排除や物件の明け渡しを請求することができますが、占有者が表見相続人であり、侵害を排除する手段が相続回復請求権の対象ということになると、消滅時効によって請求できるなくなる危険性があるということになります。
ただ、表見相続人となるためには、自身が占有管理する遺産について、自身に相続権があるものと信じるべき合理的な事由が必要なため、相続権を侵害している事実を認識していたり、侵害の事実を認識していなかったとしても、認識していないことについて過失のある場合には、その者は表見相続人ではなく、単なる不法占有者といえるため、通常の妨害排除請求等により、真正な相続人は権利を回復することができます。
民法第884条
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
おわりに
今回のコラムでは、相続人と称する者から真正な相続人が権利を回復するための相続回復請求権について解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続回復請求権は、真正な相続人にとって有益な権利というよりは、消滅時効という点で表見相続人に有利な規定と言えます。表見相続人から遺産を取り戻す際には、時効に注意し、早めに専門の弁護士に相談し、対応することをおすすめします。
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