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相続コラム

第73回相続コラム 配偶者短期居住権とは何か?配偶者居住権との比較

前回、前々回のコラムでは『配偶者居住権』について解説しましたが、似た名前の制度として、『配偶者短期居住権』というものがあります。どちらの制度も令和2年4月1日から施行された新しい制度であるため、馴染みが薄く、また、名前が似ているため混同されがちです。今回のコラムでは、『配偶者短期居住権』について、『配偶者居住権』と比較しながら解説したいと思います。

 

配偶者短期居住権とは何か

 

配偶者居住権とは

配偶者短期居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、一定期間、無償で住み続けられる権利のことをいいます。

例えば、ある夫婦がいて、夫所有の自宅に夫婦が暮らしていましたが、夫が亡くなり、その夫は自宅を長男に譲る旨の遺言をのこしていたとします。そうすると、遺言によって自宅は長男の所有物となるため、厳密に法律を適用すると、妻は自宅に住み続ける法的な根拠がないため、明け渡しを求められると、すぐに自宅を追い出されるおそれがあります。

妻としては、夫の意思を尊重し、長男が実家を受け継ぐこと自体には賛成していたとしても、夫の葬儀や法要、他の財産の遺産分割に遺品整理など、肉体的にも精神的にも負担が大きい中で、自身の引越し先を準備し、直ちに明け渡せというのは非常に酷な結果となります。

そこで、法は、『配偶者居住権』という制度を設け、一定期間、自宅にそのまま住み続けることを可能とする居住権を配偶者に与え、遺産分割協議や調停が長引いた場合や、引越し等の準備のための猶予期間を与えることとしたのです。

 

法改正前の扱い

法改正前でも、類似のケースで、最高裁は「遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していると推認する」(最判平8.12.17)と判断し、遺産分割協議が終わるまでの期間は、配偶者がそのまま故人が所有していた自宅に居住することを認め、配偶者を保護していました。

ただ、上記判例は、あくまで使用貸借契約の存在を“推認”し、利用権を認めているだけなため、仮にそのような契約の存在を推認できない事情があれば、例えば、“夫が愛人に自宅を遺贈していた”というようなケースでは、妻を保護できない可能性がありました。

法改正による『配偶者短期居住権』の創設により、上記のような問題は解消されたといえます。

 

配偶者短期居住権と配偶者居住権の違い

配偶者短期居住権は、遺産分割協議や調停が成立するまでの間における、配偶者の一時的な居住権を保護し、引越し等の準備のための猶予期間を設ける制度なため、その存続期間には制限があり、特定の日から6ヶ月間等の短い期間となります。その代わり、成立するための要件は緩く、「被相続人の財産に属した建物に相続開始のときに無償で居住していた場合」に自動的に権利が発生します。

他方で、配偶者居住権は、いわば遺産分割のメニューを増やし、柔軟な遺産分割を可能にするための制度なため、存続期間に制限はなく、終身の居住権も設定可能です。ただし、配偶者居住権を取得するためには、遺産分割協議、遺贈、死因贈与や家庭裁判所の審判などによって、その権利を取得する必要があります。

 

配偶者短期居住権の成立要件

配偶者短期居住権は、
1.被相続人の戸籍上の配偶者であり
2.被相続人の所有していた建物に、相続開始時に無償で居住していれば
自動的に発生します。

ただし、『配偶者居住権』を取得した場合には、『配偶者短期居住権』は発生しません。『配偶者居住権』という長期の居住権を取得している以上、短期の居住権を更に発生させることは無意味だからです。また、配偶者に、相続欠格や廃除があった場合にも、『配偶者短期居住権』は発生しません。相続欠格や廃除の場合には、法的に保護されるに値しないと判断されるからです。

民法第1037条1項
配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。

 

配偶者短期居住権の存続期間

配偶者短期居住権は、暫定的に配偶者に無償の居住権を与えることによって、ある種の猶予期間を設ける制度なため、その存続期間は、文字通り短期となります。具体的には、以下の場合に権利が消滅します。

配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合は、「遺産分割によりその建物の相続人が決まった日」か「相続開始から6ヶ月を経過する日」のどちらか遅い日が経過すると権利は消滅します。

それ以外の場合、例えば、遺言で居住建物の相続人が指定されていた場合は、居住建物の相続人が配偶者に対して「配偶者短期居住権の消滅請求」をした日から6か月が経過すると権利が消滅します。

上記の期間前であったとしても、建物を居住以外の用途に使用した用法遵守義務違反があったり、第三者に無断使用させたような場合に、居住建物取得者から配偶者に対して権利消滅の意思表示がされると、この意思表示が配偶者に到達した時点で、配偶者短期居住権が消滅します。

 

まとめ

配偶者短期居住権は、暫定的に配偶者に無償の居住権を与えることによって、ある種の猶予期間を設ける制度です。仮に、自宅を相続できない場合であっても、一定期間、住み慣れた自宅に居住し続けられますので、新居を探したり、引越しの準備等のための時間的猶予が生まれます。

もちろん、相続対策をしっかりと行い、相続人同士の争いがなければ、配偶者短期居住権などを主張する必要は全くありません。ですが、相続が常に円満に行われるとは限らないため、残された者が窮地に立たされることのないよう、制度を整えることは重要です。

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