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相続コラム

第41回相続コラム 遺産の一部分割は認められるのか 弁護士が解説

遺産分割は、遺産の全てを1回で分割するのが一般的ですが(全部分割)、遺産の一部のみを先に分割(一部分割)することは可能なのでしょうか?今回のコラムでは、遺産の一部分割の可否と一部分割する際の注意点を弁護士目線で解説したいと思います。

 

遺産分割協議とは

遺産は、相続開始と同時に、相続人に所有権などの財産権が当然に移転します。つまり、特別な手続きをしなくても、法律的には、相続開始と同時に、遺産は相続人の財産となっています。

しかし、「当然に遺産に対する権利が移転している」と言ってみても、相続人が複数いる場合には、相続人間で共有財産となっている状態ですので、具体的に、誰がどの財産を、どのような割合で取得するのか、話し合いで決める必要があります。これが遺産分割協議です。

遺産分割協議について詳しくは「第38回相続コラム 基本から解説する遺産分割協議とは何か」をご覧ください。

 

遺産の全部分割と一部分割

通常、遺産分割は、一回の協議で、遺産の全部を分割することになります。

遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要であるところ、何度も協議をし、合意を形成するのは、手間がかかりますし、一部分割後、再度分割の協議をする際に、先行する協議の結果が後の協議にどう影響するのかを配慮しなければならず、場合によっては協議がより複雑になる危険性があるからです。

ただ、一方で、当面の生活費や相続税支払の原資を確保するため等の事情により、争いのない財産について、「遺産の一部を先に分割してしまいたい」というケースもあります。

例えば、実家をどうするのかについては、評価方法や分割方法で話し合いが長引きそうなので、先に、株や社債などの争いのない有価証券を現金化して、当面の資金にしたいなどのケースです。

 

遺産の一部分割の可否

この遺産の一部分割については、改正前の法律では、特に明文の規定がなく、どのように扱うのか議論があったのですが、2019年7月1日から施行された改正法では、遺産の一部分割について定められ、明文で認められるようになりました。

旧民法907条
「共同相続人は、…(略)…その協議で、遺産の分割をすることができる。」

改正後の民法907条
共同相続人は、…(略)…その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」

旧法下においても、判例上、一部分割が認められており、実務上、一部分割は行われてきましたが、明文で定められたことによって、適用範囲等がより明確になりました。

 

遺産の一部分割が利用されるケース

遺産分割は、遺産の全てを1回で分割する全部分割が基本になりますが、遺産の一部分割が利用されるのは次のようなケースです。

現金がすぐに必要なケース

当面の生活費、葬儀費用、相続税の支払原資などのため、すぐに現金が必要な場合に、分割が容易な遺産を先に分割するといったケースです。

特定の遺産に固執する相続人がいるケース

実家等、想い入れのある財産に固執する相続人がおり、その扱いの協議に難航しそうな場合に、他の争いのない遺産を先に分割したいといったケース。

 

遺産の一部分割の注意点

遺産の一部分割は、いわば、「争いのある部分について、問題を先送りする」といった性質を有するため、問題の根本的解決が遠のくケースもあります。争いのない部分で遺産分割を行い、ある程度必要な財産を取得したことによって、問題を解決する契機を失うというケースも少なくありません。

特に、不動産をそのまま放置し、相続登記を怠っていると、改正法の施行により罰則の適用もありますので注意が必要です。

また、残りの遺産を分割する際に、先に行われた一部分割の結果をどのように反映するのかについて、しっかりと取り決めをしておかないと、後に、先行する分割の扱いで争いになる危険性があります。

遺産の一部分割を行う際には、「先行する一部分割の結果が、残余財産の分割割合に影響を及ぼすのかどうか」を決めた上で、同内容を遺産分割協議書に盛り込んでおくことをおすすめします。

 

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