遺言書の中でも、最も手軽に作成可能な自筆証書遺言。紙とペンと印鑑があれば、誰でも作成可能な反面、偽造されてしまうおそれもあります。今回のコラムでは、遺言書の偽造が疑われる場合、どうしたらいいのか?その対処法等について解説したいと思います。
遺言書の偽造とは
法律上、「偽造」とは、文書の名義人と実際の作成者との同一性を偽ることを言います。簡単に言うと、「Aさんの遺言書を、Bさんが勝手に書く」というように、他人の文書を勝手に作成するというイメージです。
「勝手に」ではなく、本人の同意を得て他人が文書を作成するならば、法律上は「偽造」ではなくなりますが、自筆証書遺言が成立するためには「自書」=自身の手で書くことが要求されていますので、他人が本人の同意を得て、遺言書を作成したとしても、方式違背として、無効となります。
偽造が疑われる場合の対応
前回のコラムでも解説しましたが、たとえ偽造が疑われる遺言書であっても、形式上有効に見える遺言書が存在する以上、それをそのまま放置すると、遺言通りに遺産が分配されてしまう危険性があります。遺言書を偽造する者は、当然、何らかの利益を得ようと、そのような行為に及んでいるはずですので、不公平な遺産の分配がなされ、偽造者以外の者が不利益を被る危険性が高くなります。
偽造が疑われる遺言書の実現を阻止するためには、裁判によって、遺言書が偽造であることを証明し、無効であることを認めてもらう必要があります。この裁判手続きを、遺言無効確認訴訟といいます。
遺言無効確認訴訟について詳しくは
「第92回相続コラム 「遺言の内容がおかしい」、「遺言に不備がある」、遺言の効力を覆す遺言無効確認訴訟とは」をご覧ください。
偽造かどうか立証するためには
遺言書を偽造されたものとして、その効力を覆すためには、裁判で偽造であることを証明する必要があります。
しかし、遺言書の偽造が問題となった場合、本人は既に亡くなっていますから、「これはあなたが本当に書いた遺言書ですか」と尋ねることはできませんので、様々な状況証拠から、偽造であることを立証していく必要があります。
一般的には、偽造の有無は、遺言書の筆跡、遺言書の体裁、遺言書が作成された経緯・動機、遺言者と受遺者との人的関係、遺言書の保管状況などから、総合的な判断がなされますので、それらの証拠を積み上げていくことになります。
偽造を示すポイント
筆跡鑑定
メジャーな手段として、筆跡鑑定という手段があります。本人が他の文書で用いた筆跡と、遺言書の筆跡を比較して検証するという方法です。筆跡鑑定のみで裁判の結果が決まるというわけではありませんが、有効な手段の一つとなります。
保管場所や発見状況が不自然
遺言者とは疎遠なはずの親族が、突然、遺言書を保管していたとして、自身に有利な遺言書を持っていた場合や、通常では想定できないような場所に遺言書があったとして、自身に有利な遺言書を持参してきた者がいる場合など、保管場所や発見状況等が不自然な場合には、偽造と判断するのに有利になるポイントとなります。
遺言作成の経緯や人的関係性
遺言を作成する場合、通常、遺言を作成する人には、そのような遺言を作成するに至る経緯・動機があるはずです。例えば、自身の想いをエンディングノートなどに書き残していた場合に、その想いとかけ離れた内容の遺言書が突然発見されると、不自然と判断される可能性が高くなります。また、遺言者との関係が希薄で、疎遠であった者に、多額の遺産を何の前触れもなく譲るような内容の遺言は、不自然と判断されやすいと言えます。
偽造と検認の関係
自筆証書遺言を発見した場合には、裁判所において検認という手続きが必要となります。この検認という手続きは、遺言書に偽造が疑われるか否かとは無関係に必要となりますし、検認したとしても、検認は、あくまで検認時の遺言の内容を確定するのみですので、それによって遺言の有効・無効が判断されるわけではなりません。
検認について詳しくは
「第19回相続コラム 自筆の遺言書が見つかったらどうすべきかを弁護士が解説」をご覧ください。
おわりに
偽造が疑われる遺言書が見つかった場合には、それを偽造だからと言って放置するのではなく、裁判手続きによって、その実現を阻止する必要があります。実際に、偽造であることを証明していくとは容易ではないため、偽造が疑われる遺言書が発見された場合には、相続に詳しい弁護士に相談することをオススメします。
当事務所では、数多くの相続問題を解決してきた、相続に強い弁護士が、初回無料にて相談を受けております。遺言書の偽造が疑われる場合はもちろん、遺言や相続に関してお悩みのある方は、お気軽に当事務所までご相談ください。