相続が発生した際には、様々な手続きが必要となりますが、その中には期限が定められているものも少なくありません。相続放棄を選択する場合には3ヶ月以内、相続税の申告は10ヶ月以内、相続登記の申請は3年以内など、例を挙げると枚挙にいとまがありません。今回のコラムでは、期限のある相続手続きを進める知っておきたい期間の正確な計算方法について解説したいと思います。
期間の初日は算入しない
期間を計算する際の基本的なルールとして、『初日不算入の原則』と呼ばれるルールがあります。
初日不算入の原則とは、その名が示すとおり、「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない」というルールであり、法律で定められた正式なルールです。
相続放棄を例に説明すると、相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に行う必要がありますが、この期間(専門用語で熟慮期間と言います。)は、「三箇月以内」という「月単位」で期間が定められているため、『初日不算入の原則』が適用されることになります。
ですので、仮に9月6日に「自己のために相続の開始があったことを知った」とすると、9月6日は初日となるため、期間の計算上では算入せずに、9月7日から期間を計算をします。したがって、9月7日から「三箇月以内」に相続放棄の手続きを行う必要があるということになります。
民法第140条
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
初日不算入の原則の例外
初日不算入の原則は、民法第140条で規定されていますが、その但し書きによると、「その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない」となっているため、期間のスタートが午前零時から始まる場合には、初日不算入の原則は適用されず、初日も計算に含めることになります。
相続の話から少し脱線してしまいますが、例えば、とある契約を9月6日に結び、その内容として『この契約は10月1日から3ヶ月間有効』とあった場合には、初実不算入の原則は適用されず、そのまま10月1日も算入されます。この契約では、期間が午前零時から始まるので、上で挙げた民法第140条の但し書きに該当するからです。
ただ、相続放棄の熟慮期間の起算点のように「○○を知った時」は、通常、特定の日のランダムな時間になることから、「期間が午前零時から始まる」に該当するようなケースは通常はありませんので、初実不算入の原則が適用されるのが普通です。
期間の計算
では、初日不算入の原則を適用し、例えば、1月2日から「三箇月」といった場合、この「三箇月」とは具体的にどのように計算するのでしょうか。
この点、民法では、次のようなルールが定められております。
民法第143条第1項
週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
この「暦に従って計算する」という表現は、わかりづらい表現ですが、簡単に言うとカレンダー通りに計算し、“1ヶ月は30日だから、3ヶ月だと90日”というような計算はしないということを意味します。
例えば、1月2日から「3ヶ月」は、素直にそのまま4月2日と計算します。“2月は28日までしかないから、2日分足して4月4日で3ヶ月”というような計算は行わないというのが「暦に従って計算する」ということです。
満了日の計算
これまでの解説から、仮に、9月6日に「自己のために相続の開始があったことを知った」とすると、相続放棄の手続きは、初日不算入の原則を適用し、9月7日から「三箇月」以内に行う必要があるということになり、9月7日から「三箇月」は12月7日ということになります。
そして、民法では、期間の満了は、「起算日に応当する日の前日に満了する」と定められているため、12月7日の前日である12月6日午後12時で期間が満了することになります。
民法第143条第2項
週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
なお、民法第143条第2項但し書きが示すように、「最後の月に応当する日がないときは」その月の末日に期間が満了します。
例えば、11月29日に「自己のために相続の開始があったことを知った」とすると、11月29日は初日となるため、期間の計算上では算入せずに、11月30日から期間を計算をします。そうすると、相続放棄の手続きは、11月30日から「三箇月」以内に行うのですが、11月30日から3ヶ月後は、2月30日ということになりますが、2月30日という日は存在しないため、「その月の末日」である2月28日(または29日)の午後12時で期間が満了することになります。
また、仮に満了日が平日ではなかった場合には、その翌日が満了日となります。
民法第142条
期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。
例えば、上記の例で、2月28日が日曜日であった場合には、3月1日午後12時で期間が満了となります。仮に2月28日が土曜日であった場合には、3月1日も日曜日で休日にあたるため、3月2日午後12時で期間が満了となります。(土曜日も「その他の休日」にあたる)
おわりに
今回のコラムでは、期限のある相続手続きを進める知っておきたい期間の正確な計算方法について解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続に関する手続きには、期限が設けられているものも少なくないため、期限切れで手続きが行えない、罰則の適用を受ける等の過ちがないように、期間は正確に計算したいところです。もちろん、ギリギリになって手続きを行うのではなく、万が一、手続きに不備があった場合等に備えて、時間的に余裕を持って手続きを進めることが大切となります。
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