相続登記の義務化に関する改正法が、令和3年4月21日の国会で成立しました。今回の相続コラムでは、改正法によって相続登記がどのように変わったのかについて、弁護士目線でのポイントを盛り込みつつ解説したいと思います。
相続登記が義務化されます
不動産を相続した際には、その名義変更として、相続登記というものがなされます(相続登記について詳しくは「第4回相続コラム 知っておきたい不動産を相続した場合の手続き(名義変更)」をご覧ください。)。この相続登記は、不動産に関する権利関係を明確にするための制度であり、権利者のためにある制度と考えられていました。そのため、相続登記を申請して、不動産の名義を変更するか否かは任意であり、権利者の判断に委ねられていました。
しかし、今回の法改正により、相続登記の申請が義務化され、申請を怠ると罰則の適用があります。
相続登記が義務化された背景
所有者不明土地問題の解消
今回の法改正に至った背景には「所有者不明土地問題」があります。所有者不明の土地は日本全体の土地の面積の約2割を占めるというデータもあります。そのような土地は、所有者が誰かわからない以上、勝手に処分することもできず、休眠した土地として利用・開発が全く活用できない状態になっています。そのような所有者不明の土地が発生しないようにするために、相続によって土地の所有権が移転した場合には、その所有者を公の登記簿にきちんと記録して、土地の活用を図れるようにするのが今回の法改正の趣旨です。
弁護士目線のポイント
相続登記を義務化について、罰則まで設けている点で、日本政府の「所有者不明土地問題」をなんとかしたいという強い意思を感じます。実際にどこまで厳格に罰則を適用するのかは、現段階では不明ですが、解消したい問題が大きく国益に関わることから、今後の運用を注視したいところです。
相続登記の申請期間
相続登記の申請
相続登記の申請は、「自己のために相続が開始されたことを知り、かつ、当該所有権を取得した日から三年以内」に行わなければなりません。また、法定相続分で相続登記をした後、遺産分割協議で法定相続分とは異なる割合で所有権をした場合は、「分割の日から三年以内」に登記の申請をしなければなりません。
これらの申請を怠ると罰則があり、10万円以下の過料が科せられる場合があります。
所有者の住所等の変更があった場合も申請が必要
今回の法改正の趣旨は、「所有者不明の土地発生を予防」にありますので、登記簿に記録された情報は常に最新のもので正確である必要があります。そこで、今回の法改正では、不動産の登記名義人の氏名や名称又は住所の変更があったとき、不動産の登記名義人はその変更があった日から2年以内に変更登記の申請をしなければならないことになっています。
こちらの申請も怠った場合には罰則があり、5万円以下の過料が科せられる場合があります。
弁護士目線のポイント
実務上多く見られるのは、相続開始後、遺産分割協議を行い、協議の結果に基づいて相続登記を申請するパターンです。いったん、法定相続分で相続登記を行い、さらに遺産分割協議後に登記をするというは、あまり耳にしません。登記を申請する際には、登録免許税というものが必要になるため、節約のためにも一度で済ますのが合理的だからです。
遺産分割協議がスムーズに進めば問題はないのですが、場合によっては、協議が長期化し、調停や審判に発展するケースもあります。そのような場合には、罰則の適用を回避するために、今回の法改正で新設された、相続人申告登記とよばれる制度を利用することになるかと思います。
相続人申告登記
今回の法改正で新設された制度です。法務局で「所有権の登記名義人ついて相続が発生した旨」および「自らが当該所有権の相続人である旨」を申し出ると、相続登記の申告が未了でも、申告したのと同様の扱いを受け、罰則の適用を回避できるという制度です。
前述の遺産分割協議が長期化してしまったような場合には、相続開始後三年以内に相続人申告登記を申し出て、その後、遺産分割が確定した段階で、分割から三年以内に相続登記を申請することで登記自体は1回で済むことになります。
この相続人申告登記は、正確には「相続人である旨の申し出等」といいます。この申し出は、あくまで罰則の適用を回避するために設けられた便宜上の制度ですので、登記本来が有する、権利を第三者に主張する効果などは認められません。
実際に申出に必要な書類や手続きの詳細は、現段階では不明ですが、相続登記を申請するよりもかなり簡略化された手続きになる予定です。
改正法の施行時期
施行時期
改正法は国会で成立はしていますが、まだ施行されていません。相続登記義務化関連の改正法の施行については公布後3年以内の政令で定める日とされているので、2024年までを目処に施行される予定です。住所変更登記義務化関係の改正については公布後5年以内の政令で定める日とされていますので、2026年頃に施行される予定です。
弁護士目線のポイント
改正法が施行された後に発生した相続について、改正法が適用されるのは当然ですが、今回の改正法は、改正法が施行される前に発生した相続にも適用されます。その場合には、改正法が施行された日または自分が相続によって所有権を取得したことを知った日の、いずれか遅い方が起算日になります。通常は、改正法施行日が起算日になり、そこから三年以内に相続登記を申請する必要がでてくると思います。
長年ついつい相続しているはずの土地や建物を、名義を変更せずにそのまま放置しているという方も多くいらっしゃいます。相続が何代にもわたっている場合には、相続人を調査するだけでも相当な労力がかかります。いざ改正法が施行されたとしても慌てないためにも、早めの準備をおすすめします。
また、ご自身が放置することによって、お子さんやお孫さんなど、次世代に面倒事を残さないためにも不動産関係の権利関係をすっきりさせることも重要になってきます。
当事務所では、弁護士資格のみならず、不動産の名義変更には欠かせない司法書士の資格も保有しているものが在籍しています。相続登記のことはもちろん、不動産の相続でご不安やお悩みの方はお気軽に当事務所までご相談ください。