相続人間で遺産が共有状態となっていることを遺産共有と言いますが、遺産共有のままだと、遺産の処分や管理方法ついて意見の食い違いが出てきた場合に、様々な不都合が生じ、予期せぬ争いに発展する危険性があります。今回のコラムでは、遺産共有について簡単に解説するとともに、その解消方法について解説したいと思います。
そもそも遺産共有とは
単一の物が複数人によって支配・利用されている状態を共有といいます。簡単に言うと、1つの物を複数人で所有している状態のことです。
相続が発生し、遺言が存在しない場合には、自動的に遺産は法定相続人間で共有状態となるため、相続の場面では共有関係が生じやすく、相続によって発生する遺産の共有状態のことを特に遺産共有と呼びます。
遺産共有状態のデメリット
トラブルの火種となる危険性がある
遺産、特に不動産のような物理的に分割することが難しい財産について共有状態が続くと、後にトラブルとなる危険性があります。
例えば、兄弟で実家を相続し、その実家を遺産共有状態のまま放置していたとします。当初は特に問題なかったのですが、急に弟が、お金が入用になって、実家を売却したいと思っても、兄の同意を得られなければ、実家を売却することはできません。実家を残しておきたいという兄と、お金が必要な弟との間で、争いに発展する可能性もあります。
また、前回のコラムで解説したように、共同相続人の1人が相続した不動産を独占的に利用していたとしても、その明渡しを求めることは容易ではなく、ケースによっては、賃料相当額の金銭の要求も制限される場合があります。仮に金銭の支払に応じたとしても、その額や支払方法を巡って争いになる危険性もあります。
遺産共有している不動産の明渡しについて詳しくは、前回のコラム「第142回相続コラム 相続した不動産を共同相続人の1人が独占している場合、明渡しを請求することはできるのか」をご覧ください。
共有者が増えていくと収集がつかなくなる危険性がある
遺産を共有している相続人について、さらに相続が発生すると、共有者の数がねずみ算式に増えていくので、共有者全員を把握するのも難しくなり、そこから財産に関する事項について、合意を形成するのは、共有者同士の関係も希薄となっていくことから、さらに難しくなってしまいます。遺産共有はなるべく早期に解消しておくことをおすすめします。
遺産共有を解消する方法
遺産分割協議
遺産共有を解消するためには、遺産分割協議によって、遺産を相続人間で分配する必要があります。
遺産分割協議とは、簡単に言うと、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きのことを言います。遺産分割の代表的な方法としては、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つの方法があり、相続人間の話し合いの中で、遺産の種類や各人の希望に沿った分割方法で遺産を分けていきます。
遺産分割の方法について詳しくは
「第39回相続コラム 基本から学ぶ遺産分割の4つの方法」をご覧ください。
なお、遺産分割協議が有効に成立するためには、相続人全員の合意が必要となります。仮に、協議が調わない場合には、次に解説する、遺産分割調停や審判の手続きを申し立てることになります。
遺産分割調停
どうしても遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停というものを申し立てることになります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所の力を借りて、遺産分割協議に関する争いを解決する手続きになります。
被相続人の遺産としてどのようなものがあって、それを相続人の間でどのように分けるかについて、家事審判官(裁判官)と調停委員で組織される調停委員会が、中立公正な立場で、申立人、相手方それぞれから言い分を平等に聞いて、調整に努めたり、時には具体的な解決策を提案するなどして、話し合いで円満に解決できるよう斡旋する手続です。
調停は、裁判とは異なり公開の法定で争うものではなく、裁判所が一種の仲裁役のような形で関与し、あくまでお互いの納得できる解決策を一緒に模索するようなイメージの手続きです。
遺産分割審判
遺産分割調停で、納得の行く結論が出ず、調停不成立となった場合には、自動的に、遺産分割審判へ移行します。
通常の民事事件、例えば、貸したお金の返還を求めたり、不法な行為に対して損害賠償を求める事件では、『裁判』と呼ばれますが、相続などの家庭内の争いは家事事件と呼ばれ、家事事件における『裁判』が『審判』にあたります。
審判では、互いに主張をぶつけ合い、証拠によって立証していくという、通常の裁判と同様の審理方式がとられます。
審判では、最終的に、裁判官が結論を決定という形で出します。この決定は、通常の裁判における判決と同様の効力を有します。
おわりに
今回のコラムでは、遺産共有について簡単に解説するとともに、その解消方法について解説しましたが、いかがだったでしょうか。遺産共有を解消するには、遺産分割協議で話し合いを行い、それでも解決しない場合には、家庭裁判所で調停や審判に進むことになります。
遺産分割協議では、身内同士の協議となるため、どうしても話し合いが感情的になり、対立してしまうケースがあります。弁護士という専門家が交渉に参加することによって、感情的な対立を回避できる場合があります。また利害の衝突や、不公平感から交渉が進まないケースでは、法律の専門家の立場から、公平な分割方法を提案することもできます。
特に、遺産分割協議に関連する特別受益、寄与分など、法律的・専門的判断が必要な分野では、相続問題に詳しい弁護士のアドバイスを聴けると安心できます。
当事務所では、相続問題に精通した弁護士が、遺産分割に関する相談を受けております。初回相談無料で、時間制限もないため、安心して納得の行くまで、ご相談いただけます。遺産分割でお困りの方は、お気軽にご相談ください。