相続が発生した後、相続した財産をどのように分配するのかは、遺産分割協議というものが必要になるのですが、その際に、相続人の中に認知症の方がいる場合には、特別な対応が必要になります。今回のコラムでは、相続人の中に認知症の方がいる場合の遺産分割協議について解説したいと思います。
遺産分割協議とは
被相続人が遺言を残さずに死亡した場合には、被相続人の財産はいったん相続人全員の共有財産となります。この共有状態を解消し、誰がどの財産を相続するのか具体的に決めるのが遺産分割協議になります。
例えば、父が亡くなり、実家と土地を母が相続し、息子が家業を継ぎ、現金と預金については娘が相続するなど、協議で決めることになります。
遺産分割協議をしなかったとしても、法律上は、被相続人が亡くなった場合には、自動的に相続が開始し法定相続分に従って相続財産は相続人の共有財産となりますので、遺産分割協議を必ずしないといけないということはありません。しかし、遺産分割をしないと、預貯金の払い戻しできなかったり(被相続人が死亡すると口座は凍結される)、不動産などの資産活用が難しくなるなど、様々な不都合が生じます。後々トラブルになるケースもありますので、遺産分割協議はしっかりとすべきでしょう。
例えば、前述の例ですと、遺産分割協議を経ないと、口座が凍結されたままとなり、預金を引き出すことができず、また家業を継いだはずの息子は、家業(それを構成する財産や会社なら株式)が相続人全員の共有状態になっているため、仮に他の相続人に反対されると、思うように事業を進めることができなくなります。
遺産分割協議をするためには行為能力が必要
少し難しい話になりますが、遺産分割協議をするには「行為能力」「意思能力」というものが必要になります。行為能力とは、契約などの権利義務が発生する法律的な行為を単独で有効にできる能力をいいます。「意思能力」とは、有効に意思表示をする能力のことをいい、具体的には自己の法律行為の結果を弁識するに足りる精神的な能力のことです
例えば、未成年者などは契約内容などを単独で判断することが難しいと法は考え、親権者の同意がないと契約は結べないようになっています。言い換えると未成年者には行為能力がないということです。
成人していたとしても、高度の認知症を患っているような場合には、意思能力を欠く状態といえ、成年後見人が必要な場合は、制限行為能力者となり、単独で有効な法律行為を行うことはできません。
遺産分割協議は、それに参加し遺産分割をするとなると、権利を取得したり義務を負ったりすることもあるため、行為能力及び意思能力が必要とされています。
認知症を患っている方が遺産分割協議をするには
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要になるため、その相続人の中に認知症の方がいる場合、その認知症の方の合意が判断能力を欠くため無効と判断されれば、遺産分割協議そのものが全て無効になってしまいます。
そうならないためには、認知症の方のために成年後見人という代理人を家庭裁判所に選任してもらい、その成年後見人と相続人で遺産分割協議を行う必要があります。
成年後見人選任の申し立てから、実際に成年後見人が選任されるまで、数ヶ月程度かかりますので、急を要する場合には、成年後見開始の申立てと同時又はその後に財産管理者の選任申立てをすることになります。
認知症にも症状や程度は様々
認知症と診断されていても、認知症は軽度なものから重度なものまで様々です。認知症と診断されていても、その症状が軽度で、自身で遺産分割協議に参加する能力があれば、有効な遺産分割協議ができます。症状についての診断は、医師が行いますが、法律行為を行うことができる程度の意思能力があるのかどうかは、医師の診断を基に、最終的には裁判所が判断します。そのため、認知症に罹っている場合は、医師の判断もさることながら、法律家の判断も必要となります。
専門的な話にはなりますが、仮に判断能力を欠くとまでは言えなくても不十分と判断されれば、成年後見人ではなく、保佐人や補助人というものを家庭裁判所に選任してもらい、あわせて保佐人や補助人に遺産分割協議についての代理権を家庭裁判所に付与してもらう手続きが必要になります。
その後は、成年後見人が選任された場合とほぼ同様に、保佐人や補助人と相続人とで遺産分割協議を進めることになります。
悩んだら相続に強い弁護士へ相談
ご家族に認知症を患っている方がいて、相続が発生した場合には、遺産分割協議を含めたその後の手続きについて何かと不安に思われる方が多いと思われます。安心して相続手続きを進めるためにも、また認知症を患っている方の利益のためにも、相続問題に強い弁護士へ相談することをお勧めします。当事務所でも、相続問題に強い弁護士が、初回相談無料で、また、納得のいくまでご相談できるように、時間制限を設けずにご相談いただけます。