新年度が始まり、相続に関する新しい制度も施行され、相続登記の申請が義務化されました。従来、相続登記を申請するか否かは、相続人の自由意思に委ねられていたのですが、4月1日から義務化され、申請を怠ると罰則の適用もあります。今回のコラムでは、4月1日からスタートした相続登記義務化について、改めてその内容を解説したいと思います。
相続登記とは
人が亡くなると、その故人(専門用語で「被相続人」と呼びます)が有していた財産は、相続人に相続されます。被相続人が自宅や土地などの不動産を所有していた場合には、それらの所有権も、当然、相続人に移転することになります。
そして、不動産は一般的に価値の高い財産なため、その権利関係を明確にするために、法務局の記録簿(法務局の記録簿のことを「登記簿」と言います)に、不動産の名義や権利関係を登録しておくことができます。相続による不動産の所有権移転を登記簿に反映させることを相続登記と呼びます。
つまり、簡単にいうと、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する手続きが相続登記というわけです。
相続登記義務化の背景
相続登記が義務化された背景にはいわゆる「所有者不明土地問題」があります。所有者不明の土地は日本全体の土地の面積の約2割を占めるというデータもあります。そのような土地は、所有者が誰かわからない以上、勝手に処分することもできず、休眠した土地として利用・開発が全く活用できない状態になっています。
そのような所有者不明の土地が発生しないようにするために、相続によって土地の所有権が移転した場合には、その所有者を公の登記簿にきちんと記録して、土地の有効活用を図れるようにするというのが今回の法改正の趣旨です。
能登半島地震の復興作業においても、不動産の所有者が判然としないことが、その作業の妨げとなっているという報道があります。
被災した建物を、申請に基づき市町村が所有者に代わって解体・撤去する制度、公費解体制度というものがあるのですが、その申請の際には、撤去・解体について、不動産の所有者の同意が必要となります。
しかし、相続登記が適切に申請されていない古い建物等は、登記簿上の名義人は既に亡くなっていることが多く、所有者となっているはずの相続人を探そうにも、何代にもわたって相続が発生していると、相続人の相続人を探すような作業が必要となるため、全ての相続人を探し出し、同意を得ることは非常に困難となります。
所有者である現在の相続人の同意が得られない以上、被災した建物を撤去したくても撤去できず、復興が進まないという事態に陥ってしまいます。所有者が不明な土地や建物が増えると、その有効活用の妨げになるだけでなく、災害時の復興の妨げにもなってしまうのです。
相続登記義務化の内容
相続や遺言によって、不動産の所有権を取得した場合には、一定期間内に、所有権移転の登記を法務局に申請しなければなりません。
具体的には、
単独で相続した場合、法定相続分で登記する場合、遺贈で不動産を取得した場合は、「相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内」に登記を申請しなければなりません。
相続開始後、遺産分割協議を行い、遺産分割協議に基づいて不動産を取得する場合も「相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内」に登記を申請しなければなりません。
法定相続分で登記した後に、遺産分割協議を経て、法定相続分とは異なる割合で所有権を取得した際には、「その分割の日から3年以内」に登記申請する必要があります。
正当な理由なく、これらの申請を怠ると罰則があり、10万円以下の過料が科せられる場合があります。
『正当な理由』について詳しくは「第133回相続コラム 相続登記義務化- 登記申請しないことに「正当な理由」があると認められる場合について」をご覧ください。
過去の相続も義務化の対象なので注意
相続登記の義務化において、注意しなければならないのが、改正法施行前に発生した相続についても、相続登記義務化の対象ということです。
つまり、「令和6年4月1日改正法が施行されたので、これから相続で不動産を取得した際には、名義変更を申請して下さいね。」ではなく、「令和6年4月1日改正法が施行されたので、施行日以降発生した相続はもちろん、施行日以前に発生した相続についても、名義変更していない不動産がある場合には、申請してくださいね」ということです。
一般的に、法改正があると、「施行後の法律関係」に対して改正法が適用されるのが普通であり、施行前の法律関係について改正法が適用されることはあまり多くはありませんが、相続登記義務化については、施行前の相続に適用できないとすると、相続登記が行われずに放置されている現状の問題を解決できず、「所有者不明土地問題」等を解消できなくなってしまうため、改正法の施行前の相続も対象となっているのです。
改正法施行前の相続についての相続登記の申請期間は、改正法が施行された日または自分が相続によって所有権を取得したことを知った日の、いずれか遅い方が起算日になり、そこから3年以内に相続登記の申請をする必要があります。
多くのケースでは、改正法の施行日が起算日となり、そこから3年以内に申請する必要がでてくると思います。
例えば、相続したことは知っていたが、特に取得した不動産について処分等は考えていなかったのでそのまま放置していた、というようなケースです。
故人と疎遠であり、相続が発生していたことを知らなかったようなケースでは、「相続の開始と所有権取得を知ったとき」を起算日とし、そこから3年以内に申請することになります。
おわりに
今回のコラムでは、4月1日からスタートした相続登記義務化について、改めてその内容を解説してみましたが、いかがだったでしょうか。相続が発生したけど、故人の配偶者が、そのまま故人名義の不動産に住み続けるというようなケースも少なくなかったのですが、相続登記が義務化された以上、しっかりと申請を行う必要があります。また、上で解説したとおり、改正法施行日前の相続についても、義務化の対象となりますので、未申請の不動産がある場合には、早めに申請することが大切となります。
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