第153回から第155回相続コラムにおいて、代表的な相続のケースにおける相続登記の必要書類について解説しました。しかし、個別具体的な相続のケースにおいては、必ずしもテンプレ通りの書類で足りるわけではなく、例えば、相続放棄した相続人がいる場合には、必要書類が変わってきます。今回のコラムでは、相続放棄した相続人がいる場合の相続登記の必要書類について解説したいと思います。
そもそも相続放棄とは
相続放棄とは、相続に関する権利・義務の一切を放棄することをいいます。遺産を相続することができなくなるのはもちろん、借金等の負債も相続することがなくなるので、多額の借金等を相続することから免れるために利用されるのが一般的です。
相続放棄をすると、法律上、相続放棄をした人は、「初めから相続人とはならなかったものとみな」されます(民法第939条)。
相続放棄により、その放棄した相続人は、相続人ではなかったものとみなされる以上、例えば、遺産分割協議を行う際には、その協議に参加する必要はなくなるため、遺産分割協議書に署名や捺印する必要はありませんし、印鑑証明書の提出も不要になります。
相続放棄したことを証明するための書類が必要になる
相続放棄をした相続人がいる場合、相続放棄した者は相続人ではなくなるため、その者の住民票や戸籍謄本など、提出が不要になる書類が発生しますが、他方で、その者が相続放棄したことを証明するための書類の提出が必要となります。
法定相続人が相続放棄によって相続人ではなくなったとしても、その事実が戸籍等に記載されるわけではありませんので、法務局で登記を受け付ける登記官に、間違いなく相続放棄したということを確認してもらうために、相続放棄したことを証明するための書類として「相続放棄申述受理証明書」という書類を提出することになります。
「相続放棄申述受理証明書」は、簡単に言うと、家庭裁判所に発行してもらう、相続放棄が受理された旨を証明する書面になります。
相続放棄したことを証明する書類として、最も確実で頻繁に利用されるのが「相続放棄申述受理証明書」ですが、他にも、登記実務上、相続放棄申述受理証明書と同等の内容が記載された 「相続放棄等の申述有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」や「相続放棄申述受理通知書」を提出することもできるとされています。
提出すべき書類で迷ったら、「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所に発行してもらうのが確実です。
相続放棄した相続人がいる場合の相続登記の必要書類【具体例】
法定相続分どおりに相続する場合における相続登記の必要書類は一般的に下記のようになります。
■登記申請書
■被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
■被相続人の住民票の除票(または戸籍の除附票)
■相続人全員の戸籍謄本
■相続人全員の住民票
■相続する不動産の固定資産評価証明書等
■相続する不動産の登記事項証明書(または登記簿謄本)※提出不要
ここで、相続人の中に相続放棄をした者がいる場合には、相続登記の必要書類は、下記のように変わります。
■登記申請書
■被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
■被相続人の住民票の除票(または戸籍の除附票)
■相続人全員の戸籍謄本(相続放棄した相続人の戸籍謄本は不要)
■相続人全員の住民票(相続放棄した相続人の住民票は不要)
■相続する不動産の固定資産評価証明書等
■相続する不動産の登記事項証明書(または登記簿謄本)※提出不要
■相続放棄申述受理証明書
法定相続分通りに相続登記を申請する典型的なパターンとは異なり、相続放棄した相続人がいるので、そのことを証明するために「相続放棄申述受理証明書」が新たに必要となっています。また、相続放棄した者は相続人ではなくなっているので、その者の戸籍謄本や住民票の提出は原則として不要となります。
各書類の詳細については
「第153回相続コラム 法定相続分通りに相続する場合の相続登記の必要書類」をご覧ください。
おわりに
今回のコラムでは、相続放棄した相続人がいる場合の相続登記の必要書類について解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続放棄をした相続人がいる場合には、その相続人に関する戸籍謄本等の書類が不要になる反面、相続放棄によって相続人ではなくなっていることを証明するために「相続放棄申述受理証明書」の提出が必要になるということが今回のコラムのポイントです。
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