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相続コラム

第173回相続コラム 遺留分の主張ができない5つのケース

前回のコラムでは、遺留分の放棄について説明するとともに、遺留分を放棄する方法について解説しました。遺留分は相続人の生活を保障する大切な権利なため、遺留分の放棄についていくつかのルールがありました。そんな大切な権利である遺留分ですが、遺留分の主張ができないケースもいくつか存在します。今回のコラムでは、遺留分の主張ができない5つのケースについて解説したいと思います。

 

遺留分のおさらい

遺留分とは、一定の相続人に最低限保障された遺産の取り分のことをいいます。

本来、遺産の元々の所有者である故人は、遺言等によって自由に財産を処分できるはずですが、故人の近親者である相続人には、故人の財産に生活を依存している人も少なくないところ、故人が亡くなった後の相続人の生活の安全を守ることは重要であり、法は、遺贈等によっても侵害できない、遺留分という最低限の遺産の取り分を保障しているというわけです。

具体的には、遺留分が認められる相続人は、遺留分侵害額請求権という権利を行使して、遺贈等によって遺産をもらいすぎた者から、遺留分に相当する額の範囲で遺産を取り戻すことができます。

例えば、ある夫婦がいて、夫には5,000万円の遺産があったとします。専業主婦をしていた妻は、仮に夫が亡くなったとしても、夫の遺産5,000万円があるので、老後の心配は特にしていませんでした。ところが、いざ夫が亡くなってみると、夫は遺言をのこしており、全ての遺産を特定の第三者に遺贈する旨の遺言があったとします。全ての遺産が第三者に遺贈されてしまうと、夫の遺産を生活費にあてる予定であった妻としては、急遽当てが外れて、生活に困窮してしまうことになってしまいます。

そこで、妻は、遺留分侵害額請求権を行使して、遺贈を受けた第三者から、自身の遺留分である2,500万円を取り返すことを法は認めているのです。

 

遺留分の主張ができない5つのケース

 

相続人が兄弟姉妹や甥・姪のケース

遺留分は、相続人の生活を保障する重要な権利ですが、遺留分を認めるということは、その限りにおいては、遺言者(故人)が自身の財産(遺産)を自由に処分する権利を制限するということを意味します。

本来、自身が所有する財産は、その所有者が自由に使用したり、処分できるはずであり、その権利への制限は限定的であるべきです。そのため、法は、全ての相続人に遺留分を認めるのではなく、一定の相続人のみに遺留分を認めています。

具体的には、被相続人の配偶者、子や孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属に遺留分は認められていますが、兄弟姉妹や甥・姪には遺留分は認められていません。

 

相続放棄をしたケース

相続放棄とは、被相続人の権利義務の承継を拒否することをいいます。相続の場面では、一定の要件の下、相続する権利を放棄することを法は認めています。

相続放棄をすると、放棄をした相続人は、相続人ではないことになりますので、相続人の権利である遺留分の主張もできなくなります。

 

相続欠格や相続人の廃除を受けたケース

相続欠格とは、法律で定められた不正な事由(相続欠格事由)が認められる場合に、その相続人の相続権を失わせる制度です。

ドラマや映画などでありそうな話ですが、例えば、被相続人を遺産目当てに殺害した場合や遺言書を偽造した場合等に、そのような不正を行う者の相続権を失わせるのが相続欠格という制度です。

相続欠格事由が認められる場合には、その者の相続権は失われますので、相続人の権利である遺留分も主張することはできなくなります。

相続欠格と似た制度として、相続人の廃除という制度があります。

相続人の廃除とは、相続人から虐待を受けたり著しい侮辱行為があった場合に、その相続人の相続権を奪う制度です。

相続人の廃除をする場合には、被相続人から家庭裁判所に申立を行うのですが、廃除の請求が裁判所に認められた場合には、廃除された相続人は相続権を失うため、遺留分の主張もできなくなります。

なお、相続欠格と相続人の廃除は、ともに相続権を失うという意味で似ていますが、相続欠格の場合には、相続欠格事由があれば、特別な手続きを経ることなく相続人の相続権が失われます。それに対して、相続人の廃除は、被相続人の廃除請求が裁判所に認められてはじめて相続人の相続権が失われます。

 

遺留分を放棄したケース

前回のコラムで解説したとおり、相続人は自らの意思で遺留分を放棄することができます。

遺留分を放棄した場合には、当然ですが、遺留分の主張はできなくなります。

遺留分は、相続人のための権利ですので、その相続人が自らの意思でその権利を放棄した場合には、遺留分の主張はできないのは当然となります。

ただし、被相続人の生前に遺留分を放棄する場合には、被相続人が自身の思い通りの遺言を実現させるために、遺留分を放棄するよう迫ってきたり、不当な干渉や圧力がかけられる危険性があります。ですので、そのような被相続人からの不当な干渉等を避けるために、被相続人の生前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可を得る必要があると法は定めています。

 

遺産分割協議に同意したケース

遺産分割協議とは、相続人間で誰にどのように遺産を分配するか、遺産の分け方を協議することを言います。

遺産分割協議が有効に成立するためには、相続人全員の合意を必要としており、成立のための要件は厳しい反面、全員の合意が得られるのであれば、遺産をどのように分配しようが問題はありません。

ですので、遺留分を無視した内容の遺産分割協議も、相続人全員の合意があれば有効となり、一度自らの意思で内容に同意した以上、後から「同意はしたけど、やっぱり遺留分相当額は返して」という主張は認められなくなります。

 

おわりに

今回のコラムでは、遺留分の主張ができない5つのケースについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。今回のコラムで、特に注意して頂きたいポイントは、相続放棄と遺産分割協議のケースです。

「遺言で遺産はもらえないことになっているから、相続放棄してしまえ」等と安易に相続放棄してしまうと、本来取り戻すことができた遺留分も主張できなくなってしまいます。同様に、「遺言があるけど、あらためてその遺言に沿った形で遺産分割協議書を作成したい」という他の相続人の意向に沿って、遺産分割協議に同意してしまうと、遺留分の主張が制限されてしまう危険性があるので、注意が必要となります。

遺言で遺産がもらえなくなったり、取り分が少なくなった場合には、遺留分があることを是非、頭の片隅に留め置いて頂ければと思います。

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