遺言によって、特定の相続人や相続人以外の第三者に遺産を譲ることができますが、実際に遺言の効力が発生するのは、遺言を書いた遺言者本人が亡くなった後になります。そのため、遺言の内容を実現する際には、遺言を書いた本人以外の誰かが、遺言内容を実現するための手続きを行う必要があります。今回のコラムでは、遺言の内容を実現する遺贈義務者とは何かついて解説したいと思います。
遺贈義務者とは
遺言によって、特定の相続人や相続人以外の第三者に遺産を譲ることを遺贈といいます。遺贈義務者とは、その遺贈の目的物の引渡しや、遺贈に伴う手続きを行うべき義務を負う人のことを言います。
例えば、ある人が、遺言によって、自身の所有している高級腕時計を、時計愛好家である友人に遺贈したとします。その遺言を書いた本人が亡くなると、遺言の効力が発生しますが、遺言の効力が発生するとは言っても、高級腕時計が友人の下へ自動的に瞬間移動するということはありませんので、現実には誰かがその時計を友人に引き渡す必要があります。その誰かというのが遺贈義務者ということです。
また、不動産を譲る場合には、その名義変更手続き(登記申請)が必要になりますが、登記の申請は、譲り渡す人と譲り受ける人の双方が共同して申請するのが原則となります。しかし、遺贈の場合には、譲り渡す本人は既に亡くなっているため、遺言者本人に代わって手続きを行う者が必要であり、その手続きを行う者が遺贈義務者ということです。
誰が遺贈義務者となるのか
原則として、遺言者の相続人が遺贈義務者となります。
相続では、故人(遺言を書いた人)の財産や権利のみならず、故人に属した義務も相続人に相続されるところ、遺贈の目的物や遺贈に伴う手続きを行う義務も故人に属する義務の一種と言えるからです。
遺言者の相続人が遺贈義務者となるのが原則となりますが、包括遺贈がなされている場合には、包括受遺者も遺贈義務者となります。
包括遺贈とは、遺産の全部または一部を割合をもって示し対象とする遺贈を言います。例えば、「全財産を譲る」とか、「全財産の半分を譲る」などといった遺贈です。包括遺贈を受けた包括受遺者は、法律上、相続人と同様の立場になるため、相続人と同じように遺贈義務者となります。
また、遺言者の相続人が遺贈義務者となるのが原則ですが、その相続人がいない場合や相続人がいるのかどうか明らかでないというケースもあります。そのような場合には、家庭裁判所で選任された相続財産管理人という人が遺贈義務者になります。
まとめ
■遺贈義務者には原則として相続人がなる
■包括受遺者も相続人と同様の立場になるため、遺贈義務者となる
■相続人がいない場合や不明な場合には、家庭裁判所で選任された相続財産管理人が遺贈義務者になる
遺言執行者がいる場合
遺言内容を実現する際には、遺言者本人は存在しないため、その本人に代わって遺言の内容を実現する遺言執行者を定めておくことができます。
遺言執行者は、法律上、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他の遺言に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされていますので、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者が遺贈義務者となります。
遺言執行者がいる場合には、相続人が遺贈義務を負う必要がなくなるので、相続人は遺贈義務者とはなりません。
おわりに
今回のコラムでは、遺言の内容を実現する遺贈義務者とは何かついて解説しましたが、いかがだったでしょうか。遺言をのこした場合、遺言の効力が発生した後には、遺言を書いた本人は既に存在しないため、本人に代わって手続き等を行う者が必要であり、それが遺言執行者や遺贈義務者となる相続人になります。相続人に手続き的負担を負わせたくないという場合には、遺言執行者を指定するのが有効であり、弁護士などの専門家を指定すると相続手続きを円滑に進めることができます。
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