遺言の効力が実際に発生する段階では、その遺言を書いた遺言者本人は亡くなっているため、遺言者本人に代わって遺言の内容を実現する者が必要になります。前回のコラムで解説した遺贈義務者も、遺言者本人に代わって遺言内容を実現する者のひとりになりますが、遺言内容を実現する者の典型は、遺言執行者になります。遺言執行者は、まさに遺言内容を実現することをその職務としているため、遺言内容を実現するための様々な権限を有しています。今回のコラムでは、遺言執行者を遺言者本人が亡くなった後に選任する、遺言執行者選任申し立てについて解説したいと思います。
遺言と遺言執行者
遺言執行者とは、簡単に言うと、遺言を書いた本人の代わりに遺言の内容を実現させる人を指します。遺言が実際に執行される時点では、遺言を書いた本人は亡くなっていますから、遺言の内容を自らの手で実現させることはできません。そのため、遺言執行者が遺言を書いた本人に代わって遺産の分配や相続に関する手続きを行います。
遺言によって遺言執行者を指定することが可能ですが、遺言の内容として遺言執行者を指定するか否かは、遺言者の自由意思に委ねられています。遺言執行者を指定しなかったとしても、そのことにより遺言自体の効力に影響はありません。遺言執行者がいない場合には、前回のコラムで解説したように、相続人等が様々な手続きを行うことになります。
遺言執行者が指定されていると手続きがスムーズ
遺言の内容として、遺言執行者を指定する否かは任意ではありますが、遺言執行者を指定しておく方が手続きがスムーズに進むケースが少なくありません。
例えば、不動産を相続人以外の者に遺贈された場合、遺贈の登記は、遺贈を受けた受遺者と相続人が共同申請することになりますが、相続人が必ずしも協力的とは限りません。相続人から見ると、遺贈によって自身が相続する遺産が減る格好になるため、手続きに非協力的になるのも心情です。
その点、遺言執行者が指定されている場合、遺贈を受けた受遺者は、遺言執行者のみと手続きを進めることになり、相続人の協力は一切不要となるので、通常、手続きの進行はスムーズになります。
また、例えば、相続人が多数いる場合に、その全員とやり取りを行い、協力を得るのは非常に手間ですが、遺言執行者が選任されている場合には、その遺言執行者のみとやり取りを行えば足りるため、相続手続きが簡素化されます。
遺言執行者を後から選任する
遺言執行者は、遺言によって指定することができますが、遺言者本人が亡くなった後でも、家庭裁判所に申し立てを行うことによって、選任することができます。
民法第1010条
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
遺言執行者が指定されていないことにより、相続手続きが進まない、その進行に支障がでるというような場合に、遺言執行者選任の申し立てを行うことによって、手続き等を円滑に進めることが可能となります。
遺言によって遺贈を受けた受遺者や相続人、相続債権者などが利害関係人にあたります。それらの者は家庭裁判所に申し立てを行い、遺言執行者を選任してもらうことができます。
なお、子どもの「認知」や「相続人の廃除・その取り消し」等を行う場合には、必ず遺言執行者が必要となるため、仮に、遺言で遺言執行者が指定されていない場合には、家庭裁判所にその選任を申し立てる必要があります。
おわりに
今回のコラムでは、遺言執行者を、遺言者本人が亡くなった後に選任する、遺言執行者選任申し立てについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。遺言を作成する際には、相続人等の手続き的負担を軽減するために、遺言執行者を指定しておくのが望ましいですが、遺言執行者が指定されていない遺言を発見した相続人は、遺言内容を改変することはできませんので、「手続きを円滑に進めるために遺言執行者が欲しい」という場合には、遺言執行者選任申し立てを検討することをオススメします。また、弁護士などの専門家を遺言執行者として選任すると、より手続きがスムーズに進み、かつ、様々な相続問題にも即座に対応可能となります。
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