故人が残した多額の借金。相続人がいる場合には、その相続人が負債を受け継ぎ、借金を支払うことになりますが、相続放棄を選択すると、借金を引き継ぐことがなくなります。では、相続人全員が相続放棄を選択した場合には、借金を含めた故人の財産はどうなるのでしょうか。今回のコラムでは、相続人全員が相続放棄した場合の対応について解説したいと思います。
相続を放棄しても相続財産の管理義務がある
相続放棄をすると、その放棄をした者は、「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます。ただ、相続人ではなかったことになったとしても、相続財産について「私はもう無関係」といって、放置することはできません。
故人に借金があったとしても、他の財産、例えば不動産や貴金属などを所有している場合もあるので、相続財産の管理者が管理を引き継ぐまで、それらの財産の管理は引き続き行う必要があります。
この管理義務を怠り、例えば、相続財産を毀損したり、減少させた場合には、債権者などから損害賠償請求されることもありますので、注意が必要です。
民法第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
相続人全員が相続放棄
相続人全員が相続放棄をすると、相続財産を管理する者がひとりもいなくなってしまうため、家庭裁判所に申し立てを行い、「相続財産管理人」という管理者を選任してもらうことになります。
つまり、相続人全員が相続放棄をすると、相続財産管理人が選任されるまでは、相続財産の管理を継続することになります。言い換えると、相続放棄後に、相続財産の管理を免れるためには、相続財産管理人の選任が必要になります。
相続財産管理人の選任申し立ての際には、相続財産管理人が遺産調査したり、遺産を管理・売却するための費用や管理人の報酬などが必要になります。それらを相続財産から捻出できればいいのですが、不足分が出る可能性がありますと、相続財産の種類や額によって変わりますが、通常、数十万~100万円程度の予納金を裁判所に収める必要があります。
上記の費用の問題から、実務上、相続放棄をしたはずの相続人が財産の管理を継続し続けるというケースもよく見られます。
管理が面倒だからといって、勝手に相続財産を処分などしてしまうと、法定単純承認とみなされ、借金等を相続することになるおそれがありますので、注意が必要です。
法定単純承認について詳しくは
「第51回相続コラム 相続放棄を利用する際に注意したいこと」をご覧下さい。
相続放棄で困ったら弁護士に相談
相続放棄によって、多額の借金を相続してしまうという状況にはならなかったとしても、その後、相続財産の管理をどうしたらいいのかという問題が発生するケースも多々見られます。
相続放棄は、3ヶ月という短い期間で行う必要もあり、葬儀やその他の手続きで、時間的な余裕がない方も少なくありません。放棄後のことや、万が一に備えると、相続問題に強い専門の弁護士に相談するのが確実で安心できる選択肢と言えます。
また、債務超過事案でも相続放棄ではなく、「限定承認」という手続きを取ることによって、相続放棄後の相続財産管理人選任や財産管理をしなくてよい場合があります。
当事務所でも、相続問題に精通した弁護士が、無料相談を行っておりますので、相続放棄でお悩み・お困り事があれば、お気軽にご相談ください。