社会が高齢化するに伴って、また、近年の終活ブームにより、遺言を書く人が増えましたが、一度書いた遺言をどうやったら変更したり、取り消すことができるのか気になる方も少なくないのではないでしょうか。特に公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、手元にある謄本を破棄しても原本には全く影響がないため、正しい撤回の方法を押さえておく必要があります。今回のコラムでは、一度書いた遺言を取りやめる方法、遺言の撤回について解説したいと思います。
遺言の撤回は自由にできる
遺言を書いたとしても、後に気が変わったり、または、ご自身や相続人を取り巻く状況に変化があると、それに合わせて「遺言の内容を変更したい」、「遺言を取り消したい」ということは少なくありません。
遺言は、書くのも自由ですし、書いた後に、それを変更したり取り止めることも自由にすることができます。一度書いた遺言を変更したり取り消したりすることを、法律上、遺言の『撤回』と呼びます。
遺言の撤回方法
「遺言を撤回する」旨の遺言をする
「遺言を撤回します」という内容の遺言を作成することによって、遺言を撤回することができます。自筆証書遺言でも、公正証書遺言でも、「遺言を撤回する旨の遺言」を作成することによって、いつでも自由に遺言を撤回することができます。
よくある勘違いとして、「公正証書遺言を撤回するには公正証書遺言で撤回しないといけない」と思われる方もいらっしゃいますが、遺言の方式間で特別な優劣関係はありませんので、自筆証書遺言で公正証書遺言を撤回することも、公正証書遺言で自筆証書遺言を撤回することも、法律上は問題ありません。
ただ、一般的に、公正証書遺言のような重要な文書を、簡易な自筆証書遺言で撤回していると、後に偽造等が疑われるおそれがないとは言えないため、争いの火種を可能な限り除去するという点からは、撤回時の手数料は比較的安価ですので、公正証書遺言の撤回は公正証書遺言で行うのが無難と言えます。
民法1022条
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
撤回時の注意点として、「撤回」を撤回することはできないという点は注意しましょう。「撤回」を撤回しても、一度撤回によって効力を失ったものが、再度効力を発生するということはないので、新たに遺言を書き直す必要があります。
例えば、「長男に自宅を譲る」という遺言を作成し、次いで「長男に譲るのは撤回し、次男に自宅を譲る」という遺言を作成したとします。その後、「やっぱり前の遺言を撤回する」という遺言を作成しても、「長男に自宅を譲る」という最初の遺言の効力が元に戻るわけではないということです。その場合には、あらためて「次男に譲るのは撤回し、長男に自宅を譲る」という遺言を書き直しましょうということです。
民法1025条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
以前と異なる内容の遺言を作成
以前と異なる内容の新しい遺言を作成すると、新しい遺言の内容と抵触する部分については、古い遺言は撤回されたものと法律上みなされます。つまり、新しい遺言の内容が優先され、古い遺言の抵触する部分は自動的に無効となるのです。
遺言書を作成する際には、「日付」の記載が必須とされているのはこのためです。
遺言書の破棄
最も簡単で確実な遺言の撤回方法は、遺言書を破棄することです。自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、その原本をご自身で管理されているのが通常ですので、その原本を物理的に破壊・破棄することによって、遺言を撤回することができます。
古い遺言書を破棄すると、当然、古い遺言書に書かれた内容は全て撤回されたことになりますので、全部の撤回ではなく一部を撤回したいという場合には、また新たに遺言書を一から作成しなおすという手間はかかります。しかし、複数の遺言書が存在すると、争いの火種になりかねないので、一部の修正の場合でも、古い遺言書を破棄し、また一から遺言書を作成するというのはよく採られる手段です。
注意点としては、公正証書遺言を作成した場合、手元には原本がありませんので、「遺言書の破棄」による撤回はできません。公正証書遺言を作成すると、その原本は公証役場に保管されるため、手元にある謄本(コピー)をいくら破棄しても、撤回の効力は一切発生しないので注意が必要です。
また、自筆証書遺言を作成し、遺言書保管制度を利用している場合にも、手元にあるのは謄本となります。遺言書の原本は法務局で保管されているため、法務局で「保管の撤回」を申請し、原本の返却を受け、その原本を破棄する必要があるので、こちらも注意が必要です。
民法1024条
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
おわりに
今回のコラムでは、遺言の撤回方法について詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。遺言書の作成は、相続対策や終活の際に重要となりますが、撤回方法を知っておくことで、ご自身のライフステージ等に合わせた適切な遺言をのこすことが可能となります。
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