前回のコラムでは、相続分の譲渡および譲渡された相続分を取り返す取戻権について解説しました。相続分を譲渡した際には、譲受人は誰なのか、また、譲渡は有償なのか無償なのかによって、譲渡人・譲受人それぞれが支払う税金が変わって来ます。今回のコラムでは、相続分を譲渡した際の相続税・贈与税について解説したいと思います。
相続分の譲渡とそのパターン
前回のおさらいにはなりますが、相続分は他人に譲り渡すことが可能であり、それは有償でも無償でも構いません。有償で譲り渡すと「相続分の売買」、無償で譲り渡すと「相続分の贈与」となります。
そして、譲渡の相手は、共同相続人となるのが一般的ですが、共同相続人以外の第三者に譲り渡すことも可能です。
つまり、相続分の譲渡には、それが有償なのか無償なのか、譲受人は共同相続人か、それとも共同相続人以外の第三者かという区分で分けることが可能で、大きく2×2=4つのパターンに分類することができます。以下それぞれの類型ごとに税金がどのように変わってくるのか解説します。
譲受人が共同相続人かつ無償の譲渡
結論から言いますと、他の共同相続人に無償で相続分を譲り渡した場合には、譲渡人・譲受人ともに、最終的に取得した相続分に応じて相続税が課せられることになります。
例えば、一億円の遺産を残してある人が亡くなり、その相続人として、長男と長女の2人の子がいたとします。それぞれ相続分は1/2ですが、仮に長男が自身の相続分の1/2を長女に無償で譲渡したとすると、最終的に長男が相続するのは1/4の遺産2,500万円で、長女は3/4の遺産7,500万円ということになります。そうすると、長男は自身が取得する2,500万円の遺産に相続税が課せられ、長女は7,500万円に相続税が課せられることになります(実際には、税金の控除等の要素が絡みますが、わかりやすくするために他の要素は一切考慮していません)。
一見するとシンプルな話しですが、疑問に思う方に向けて、解説を付加します。
上記の例ですと、長女はもともと5,000万円は相続できたので、その5,000万円に相続税が課せられることには疑問の余地はありません。しかし、長男から譲り受けた2,500万円分の遺産については、相続ではなく、無償の譲受、すなわち贈与があったと言えるので、もともともの法定相続分を超えた価額に対しては、贈与税が課せられるのではないかという疑問が沸いてきます。
しかし、そもそも法律では、法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行うことを認めており、また、その際に法定相続分を超えた取得分について贈与税が課せられるということもないので、実質的には差異のない共同相続人間の相続分の譲渡についても、同様の取り扱いがなされるべきだと考えられますので、贈与税ではなく相続税の対象となります。ちなみに贈与税は相続税に比べると高額になるため、相続税の対象となる方が、節税になります。
譲受人が共同相続人かつ有償の譲渡
他の共同相続人に有償で自身の相続分を譲渡した場合、譲渡人は、譲り渡した相続分に相当する対価を取得しており、その取得した額に対して相続税が課せられます。譲受人は、最終的に取得した相続分から支払った額を引いた額に相続税が課せられます。
有償による相続分の譲渡は、実質的には遺産分割における代償分割と変わらないと言えるところ、代償金を取得した相続人には相続税が課せられるものの、譲渡所得税等の課税はされないことと同様に考えられるからです。
譲受人が共同相続人以外の者かつ無償の譲渡
結論から言いますと、共同相続人以外の者に無償で自身の相続分を譲渡した場合、譲渡人には相続税が課せられ、譲受人には贈与税が課せられることになり、譲受人が共同相続人の場合と比べると、税金の取扱が大きく異なります。
共同相続人以外の第三者が絡むケースでは、共同相続人ではない第三者が直接対象となっている遺産を相続するということは元々できないので、いったん相続人である譲渡人が遺産を相続する必要があり(相続税が課税)、そして、財産的価値のある包括的持分である相続分が贈与された(贈与税が課税)と考えられるからです。
つまり、この共同相続人以外の者に相続分を無償譲渡すると、いわば二重に税金が課せられることになるので、注意が必要となります。
例えば、他の共同相続人に自身の全ての相続分を譲渡した場合には、譲渡人には一切相続税は課せられませんが、譲受人が共同相続人以外の者の場合には、譲渡人に相続税がそのまま課せられます。しかも、譲受人にも贈与税が課せられるということです。
譲受人が共同相続人以外の者かつ有償の譲渡
こちらのケースでも、共同相続人ではない第三者が直接対象となっている遺産を相続するということはできないので、いったん相続人である譲渡人が遺産を相続すると考えられますので、譲渡人には相続税が課せられます。また、有償の譲渡の場合は、それにより生じた所得に対し、所得税の課税がなされることになります。
他方で、譲受人は、有償の譲渡を受けたということは、言い換えると売買によって財産を取得したというだけなので、特別に課税されることはありません。ただし、著しく低い価額で譲渡を受けた場合には、その差額について実質的には贈与とみなされ、贈与税の課税対象となる場合がありますので注意が必要です。
おわりに
今回のコラムでは、相続分を譲渡した際の相続税・贈与税について解説しましたが、いかがだったでしょうか。類型毎に適用される税金が変わってくるため、難しく感じられる方も少なくないのではないでしょうか。
相続の問題は、相続に関する実体的な法律関係、何ができて、何ができないのか、だけではなく、税金の問題も複雑に絡んでくるため、相続分を譲渡するようなケースでは、専門家に相談することをおすすめします。
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