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相続コラム

第193回相続コラム 『相続させる』と『遺贈する』の違いを徹底解説|遺言書作成で迷わないために

遺言書を作成する際、「相続させる」と「遺贈する」という二つの表現で迷われる方は少なくありません。どちらも特定の財産を特定の人に承継させるという点では似た表現であり、一般の方には同じ意味に感じられるかもしれません。しかし、法律上はそれぞれ異なる制度に根ざした概念であり、使い分けを誤ると、相続手続きが予期せぬ複雑さを生んだり、想定外の負担が発生したりすることがあります。

もっとも、両者の違いを理解するためには、まず「共通点」から押さえることが有益です。両者に共通する目的を踏まえたうえで、どこに相違があるのかを整理すると、遺言書作成のポイントが自然と明確になります。今回のコラムでは、両者の共通点と差異を丁寧に説明し、さらに最高裁平成3年4月19日判決によって生じた実務上の変化にも触れながら、文言選択のポイントを解説します。

 

「相続させる」と「遺贈する」の共通点

「相続させる」と「遺贈する」は、ともに遺言者が自らの財産の行き先を指定するための文言です。遺言書の根底には、遺言者の自由意思を尊重し、死後の財産承継を本人の希望どおりに実現するという目的があります。この点は、どちらの文言を用いた場合でも全く変わりません。

例えば、ある特定の不動産や預貯金、株式など、個別の財産を誰に引き継がせるかを明確にしたい場合、これらの表現は非常に有効です。遺言書における財産の承継指定は、遺産分割のトラブルを未然に防ぐ重要な役割を果たします。したがって、「相続させる」でも「遺贈する」でも、遺言者が想定する人に財産を確実に渡したいという目的自体は変わりません。

▪️どちらも「特定の人に財産を引き継がせる」ための文言
▪️遺言者の意思に基づく承継という目的は同じ
▪️あらゆる種類の財産に使用可能

 

「相続させる」と「遺贈する」の違い

 

譲り受ける相手が異なる

共通点を確認したところで、最初の大きな違いは「財産を受け取る相手」です。

「相続させる」という文言は、原則として法定相続人を対象とするものです。相続とは、法律上定められた相続人が被相続人の財産を包括的に承継する制度であり、「相続させる」という表現は、その枠組みの中で財産を誰に承継させるかを指定するものです。そのため、相続人ではない第三者に対しては「相続させる」という表現は使えません。

これに対して「遺贈する」という文言は、相続人・非相続人を問わず、誰に対しても財産を渡すために使える表現です。たとえば長年世話になった友人や、公益法人、子の配偶者など、相続人ではない人に財産を渡す場合は、必ず「遺贈する」を用いる必要があります。

▪️「相続させる」:法定相続人にしか使えない
▪️「遺贈する」:相続人以外にも指定できる汎用的な文言

 

法的性質が異なる

次に重要なのが、両者の法的性質の違いです。

「相続させる」という文言は、民法908条が定める遺産分割の方法の指定に該当します。遺産分割のルールを遺言者自らが定め、その指示に従って特定の相続人が特定財産を取得するという仕組みです。これにより、相続開始と同時に、指定された相続人がその財産を承継する効果が生じます。すなわち、包括承継に近い扱いがなされ、相続という大きな枠組みの中で機能します。

一方で、「遺贈する」は、法律上は贈与の一種(死因贈与に類似する無償譲渡)として理解されます。遺贈は相続とは別の制度であり、相続人以外の者を含む幅広い対象に財産を譲り渡すための仕組みです。受遺者はその遺贈を受けるかどうか承認・放棄する権利を持ち、これは相続とは明確に異なる点です。

このように、両者は目的は似ていても、根本的な法律構造が異なる制度上の表現であることが分かります。

▪️「相続させる」:遺産分割方法の指定(民法908条)
▪️「遺贈する」:無償譲渡としての贈与に近い法的性質(民法964条)

 

効果が異なる

両者は法的性質が異なるため、実務上の手続や効果にも違いが現れます。

「相続させる」という文言を用いた場合、相続人は相続開始と同時に指定された財産を取得します。特に不動産については、相続登記の原因が「相続」となるため手続が比較的簡易であり、登録免許税の負担も抑えられます。他の相続人の同意も不要であり、迅速に名義変更を進められる点も実務上のメリットです。

これに対し、「遺贈する」と記した場合、受遺者は遺贈を承認するか放棄するか選択できるため、相続開始と同時に取得が確定するわけではありません。また、不動産登記では「遺贈」を原因とした登記手続となり、相続人以外が受遺者である場合には相続人の協力が必要になるケースも見られます。つまり、手続の負担は「相続させる」に比べると大きくなりがちです。

なお、遺贈の効力自体は、遺言者の死亡時に発生します。特別に承認という手続きが必要なわけではありません。受遺者は遺贈を承認するか放棄するかを選択する権利がありますが、放棄をしなければ自動的に承継が確定します。

▪️相続させる:相続開始と同時に取得/相続登記で手続が簡易
▪️遺贈する:受遺者が承認・放棄を選択可能/登記手続が複雑化しやすい

 

判例(最高裁平成3年4月19日判決)による実務上の影響

ただし、両者の違いはかつてほど明確ではなくなってきています。特に大きな影響を与えたのが、最高裁平成3年4月19日判決です。同判決は、「相続させる旨の遺言による特定財産の承継は、相続開始と同時に直ちに効力を生じ、特定遺贈に類似する効果をも認める」という立場を示しました。「相続させる」を遺産分割の方法を指定する文言だと解釈すると、遺言に基づく遺産分割が必要になりそうですが、最高裁は、「相続させる」旨の遺言を、遺産分割方法の指定であると捉えつつも、遺言者の死亡により直ちに所有権転移の効果が生じると判断しているのです。

この判決により、実務上は「相続させる」という文言による特定財産承継が、従来の特定遺贈と近い扱いを受けるようになり、両者の効果の差異は相対的に縮小しました。もっとも、依然として登記原因や受遺者の承認制度の違いなど、文言によって結果が大きく異なる場面は残っています。したがって、判例によって差異が薄れたとはいえ、文言選択が重要であることに変わりはありません。

▪️判例により「相続させる」と「特定遺贈」の効果が類似
▪️ただし登記・借地や借家権等の承継手続などの違いは依然として存在

最高裁判例
https://www.courts.go.jp/hanrei/52445/detail2/index.html

 

「相続させる」と「特定遺贈」使い分けのポイント

以上の違いを踏まえると、実務での文言選択の基準は自ずと明確になります。法定相続人に財産を渡すのであれば、「相続させる」の文言を用いるのが合理的です。手続が簡便であり、相続開始と同時に承継が確定するため、遺言者の意思どおりの承継がスムーズに実現します。

一方、相続人ではない人物に財産を渡したい場合は、「遺贈する」を使う必要があります。また、たとえ相続人に財産を渡す場合でも、あえて遺贈の形にしたい特別な事情がある場合には、遺言全体の構造や他の相続人への配慮などを慎重に検討する必要があります。

▪️相続人へ渡す → 「相続させる」
▪️相続人以外に渡す → 「遺贈する」
▪️文言選択は手続・負担・登記に影響する

 

おわりに

「相続させる」と「遺贈する」は、いずれも遺言者の意思を反映して特定財産を特定の人に承継させるための有効な表現です。しかし、法律上の性質や効果には明確な違いがあり、文言の選択によって相続手続の負担やスムーズさが変わってきます。また、最高裁判例によって実務上の差異は縮小したものの、登記手続等で依然として違いは存在します。

遺言書は、一語一句が大きな効果を持つ重要な法律文書です。文言選択に迷った場合は、専門家の助言を受けながら作成することで、遺言者の意思を確実に実現することができます。

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