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相続コラム

第61回相続コラム 相続放棄の活用方法とその注意点

借金などを相続したくない場合に、利用される相続放棄。実は相続放棄は、借金等が特にない場合にも利用されることがあります。今回のコラムでは、相続放棄の利用法やその際の注意点を解説したいと思います。

 

相続放棄とその活用

相続放棄とは、遺産に対する相続権の一切を放棄することをいいます。相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続することがなくなるため、一般的に、プラスの財産よりも借金などのマイナスの財産の方が大きいときに利用される制度です。

しかし、相続放棄をすると、法律上、その放棄をした者は、相続人ではなかったことになるため、その効果に着目して、別の目的から利用されるケースもあります。

 

特定の相続人に遺産を集中させる

例えば、亡くなった方が会社を経営していた場合、会社の株式や事業用の資産は、後継者に集中して相続させる必要があります。会社の株式や事業用の資産が、分散して相続されてしまうと、会社の意思決定が困難になったり、事業活動を円滑に行うのに支障が生じる危険性があります。

そこで、事業を承継する後継者以外の相続人が相続放棄を選択し、後継者に財産を集中させるということがあります。

また、例えば、ある人が亡くなり、その相続人としてその妻と子がいたとします。子は既に経済的に独立しているため、母の老後を案じ「父の遺産は全て母に相続してもらいたい」と考え、自身は相続放棄するというケースもあります。

第59回相続コラム 相続放棄と住宅ローンの関係で注意すべきポイント」の解説にも登場しましたが、不動産を引き継ぐ相続人に、住宅ローンも引き受けさせるために、不動産を引き継がない相続人が相続放棄を選択するという活用法もあります。

 

保証債務や裁判の被告の地位を免れる

借金などのわかりやすい負債だけではなく、相続放棄をすると、亡くなった方(被相続人)が有していたあらゆる義務から解放されます。例えば、保証債務などは典型的な例です。保証債務は、実際の契約をしている当事者(主債務者)が、滞りなく債務を弁済していれば、特に問題は発生しませんが、いつ弁済が滞り、保証人が責任を問われるかわかりません。

故人が誰かの保証人となっていた場合に、保証債務から免れるために相続放棄を利用するというケースもあります。また、レアケースではありますが、故人が裁判の被告として訴えられていたような場合に、その被告の地位を受け継がないために、相続放棄をするということもあります。

 

面倒事を避ける

借金や保証債務などがなかったとしても、「相続人間の争いに巻き込まれたくない」、「面倒な手続きをしたくない」という理由で相続放棄をされる方も少なくありません。

遺言等がなければ、遺産は、原則的に、相続人全員で行う遺産分割協議で、その配分を決めることになります。遺産分割協議という「お金が絡む話し合い」には、少なからず揉め事に発展する危険性があるため、「そのような協議に関わりたくない」という理由で、相続放棄される方もいます。

また、争いにはなからなかったとしても、相続に関する手続きには、複雑で手間のかかる手続きも少なくないことから、相続人として一々その手続きに関与するのが面倒という方で、相続放棄をされる方もいらっしゃいます。

 

相続放棄による順位の変動に注意

上で挙げた相続放棄の活用方法の中でも「特定の相続人に遺産を集中させる」ために相続放棄するというのは、よくある事案なのですが、その際に、相続放棄による順位の変動は必ず確認する必要があり、それを怠ると、意図した効果が得られないばかりが、かえって損をさせる危険性があります。

例えば、父の遺産を母に全て相続させるために、子が相続放棄を選択した結果、相続人の順位が変動し、父の兄弟姉妹である叔母や叔父が相続人となってしまったというケースも実際にあります。

次順位の相続人がいる場合には、相続放棄によって、特定の者に遺産を集中して相続させるのは難しいため、面倒でも、遺産分割協議を行い、その内容として、遺産を集中させる必要があります。

また、隠し子など、思わぬ相続人がでてくると、相続放棄によって意図しない者の取り分が増えてしまう危険性もありますので、事前に相続人調査をしっかり行うことも重要です。

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