前回のコラムでは、遺言執行者を選任するメリット・デメリットについて解説しました。遺言執行者が選任されていると、遺言執行がスムーズになる反面、相続手続きに不慣れな者が就任してしまうと、執行者に選任された者にとって大きな負担となるだけでなく、かえって遺産整理手続きが滞ってしまうおそれがあります。今回のコラムでは、遺言執行者に選任された場合に、遺言執行を第三者に任せる復任権について解説したいと思います。
遺言執行者とは
前回のコラムのおさらいになりますが、遺言執行者とは、遺言を書いた本人の代わりに遺言の内容を実現させる人を指します。遺言が執行される時には、遺言を書いた本人は亡くなっていますから、遺言の内容を自らの手で実現させることはできません。そのため、遺言執行者が遺言を書いた本人に代わって遺産の分配などを行います。
遺言執行者は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と、法律上定められており、非常に強力な権限を持っています。つまり、遺言執行者が選任されていると、遺産整理をスムーズに行うことができます。
しかし、遺言執行者は、遺言執行に関する強力な権限を有する反面、様々な法的義務を負うことになります。また、相続手続きに詳しくない者が遺言執行者に就任した場合には、その方にとって大きな負担となるだけでなく、遺言執行自体が滞る危険性もあります。
遺言執行を第三者に任せることはできるのか
実は、令和元年の法改正前の旧民法では、遺言執行を第三者に任せる=復任を原則として認めてませんでした。
遺言は故人の最終意思であり、最大限尊重し慎重な処理を必要とすることや、故人が特にその人を信じて任せているという点を重視していたためです。
もちろん旧法下でも例外は認められており、遺言執行者自体が高齢や病気のため、他の者に任せざるを得ないやむを得ない事情がある場合や、遺言に復任を認める旨の記載がある場合には、復任が可能でした。
しかし、近年では、社会が高齢化するに伴い、相続人も高齢化し、その者に遺言執行を委ねるのは難しい事情があったり、一口に遺産とっていも、以前は、主な遺産といったら銀行預金や持ち家・土地だったのが、最近では、株式や社債などの有価証券や暗号化資産を保有していたり、またインターネットの普及によってネットバンキング等の利用者も増え、その保有形態も複雑化しているため、遺言執行手続きが年々複雑化してきています。
そのような状況から遺言の執行を専門家の手に委ねたいというニーズが強くあったため、令和元年に法改正がなされ、改正後の民法では、原則、自由に遺言執行者は復任することができ、例外的に、遺言で復任を禁止していた場合のみ、復任が認められないものとしました。つまり、旧法と新法では、原則と例外が逆転したことになります。
旧民法第1016条
遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。新民法第1016条
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺言書の日付で適用の有無が変わる
法改正の前後で、復任権の扱いが異なりますが、新法と旧法のどちらが適用されるのかは、遺言書が作成された日付で変わります。つまり、作成された遺言書の日付が令和元年7月1日以降であれば、新法が適用されますが、それ以前の作成日の場合には、旧法が適用されます。
相続発生の日、遺言書の効力が発生する日によって適用法が変わると誤解されている方も少なくありませんが、遺言書の作成日で判断されますのでご注意ください。既に改正法が施行されていますが、それ以前から遺言書を作成し、そのまま内容を変更していないという方は特に注意が必要です。
遺言執行を弁護士に委ねる
遺言執行者として、はじめから専門家を指定していれば問題ありませんが、相続人であるご自身が指定されて困ってしまった場合には、復任権を利用し相続に詳しい弁護士の手に委ねることをおすすめします。
遺言執行者の義務の増大 、相続財産の多様化・複雑化など、遺言執行者の業務自体が年々難しくなっているため、安心・確実な遺言執行のためには、専門家を利用するのが近道となります。
当事務所では、遺言執行はもちろん、遺言執行者に選任されてしまった方に代わって遺産整理を行ったり、将来の遺言の執行まで見据えた遺言書作成のご相談も受けております。旧法下で作成された遺言書についても、遺言執行者のサポートとしてお手伝いすることも可能です。
遺言執行に限らず相続に関することでお悩みの方は、相談は初回無料となっておりますので、お気軽に当事務所までご相談ください。