遺言に不備があったり、内容が不自然な場合など、遺言の成否に争いがある場合、遺言無効確認訴訟という手段により、遺言の効力を覆すことが可能です。今回のコラムでは、遺言無効確認訴訟とは何か、よく主張される無効原因について解説したいと思います。
遺言無効確認訴訟とは
遺言無効確認訴訟とは、裁判所に対して、遺言が無効であることを認めてもらう訴訟のことをいいます。
遺言という法律上の文書が存在し、それが形式上有効に見えるものであれば、それをそのまま放置していると、遺言通りに、遺産の分配がなされてしまうおそれがあります。しかし、作成された遺言について、内容に不自然な点があったり、何らかの不備がある場合には、その実現を阻止する必要があります。そのためには、裁判所によって、遺言が無効であることの、いわばお墨付きをもらう必要があり、その手続きが遺言無効確認訴訟となります。
ただ、遺言や相続に関する争いについては、「調停前置主義」という建前が存在するため、いきなり裁判をするのではなく、まずは調停を申し立て、その調停の場で、遺言の有効性について話し合いがなされることになります。
遺留分侵害額請求との違い
遺言の内容について争う代表的な制度として、遺言無効確認訴訟と双璧をなす遺留分侵害額請求というものがあります。
遺言無効確認訴訟は、遺言の有効性自体を争うものであるのに対して、遺留分侵害額請求は、遺言は有効と認めた上で、遺留分という最低限保障された取り分を取り戻す請求になります。
遺留分侵害額請求について詳しくは「第18回相続コラム 遺言によって遺産が1円も貰えない!?そんな時の救済手段、遺留分侵害額請求とは」をご覧ください。
よく主張される遺言の無効原因
遺言が無効となる無効原因は様々ですが、よく主張される、問題となる無効原因を紹介します。
遺言能力の欠如
遺言が有効に成立するためには、遺言をのこす遺言者に、遺言能力というものが要求されます。遺言能力とは、簡単にいうと、遺言を書くのに必要な判断能力のことをいいます。例えば、遺言作成時に、遺言者が、認知症を患っており、自身の遺産の処分について判断能力が失われていたというようなケースでは、遺言能力を欠くとして、遺言が無効と判断されることがあります。
方式違背
遺言が有効に成立するためには、法律で定められた厳格な要件を満たす必要があり、その要件をひとつでも満たしていない場合には、遺言は無効となります。例えば、自筆証書遺言であれば、全文・日付を自書し署名・押印が必要ですが、日付や押印が抜けていたり、日付が記載されていたとしても「○○年○月吉日」のような曖昧な記載であったりすると無効原因と判断されます。また、「自書」が要求されているのに、他人が代筆していたというようなケースも無効原因となります。
証人欠格
広い意味では、方式違背のひとつとも言えますが、法律上要求される証人を欠く場合にも、遺言は無効となります。例えば、公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する際には、証人が2人以上必要となりますが、その人数を満たさないというケースです。証人が何人いるかは、一見して明らかなため、要件を欠くケースは少ないようにも思われますが、法律により証人になるには適格が必要なため、その証人適格を欠く者が証人となっている場合には、パッと見は証人が揃っているように見えますが、実は、証人の要件を満たしていないというのは、実務上、よく耳にする話しです。特に、将来相続人となるであろう推定相続人は証人適格がないため、自身のご家族を証人にすると無効となる可能性があります。
内容が不明瞭な遺言
遺言を作成するには、何を誰に譲るのかを明確に特定する必要があります。例えば、「不動産を息子に譲る」という内容の遺言があったとしても、その「不動産」とは、実家の「建物」を指すのか、実家が立っている「土地」を指すのか、それとも、両者を指すのか特定できません。また、息子が複数人いる場合には、どの息子にどの不動産を譲るのか不明なため、その記載部分について、無効と判断される可能性があります。
公序良俗違反
法律は、社会秩序を守るために存在する以上、公の秩序や善良な風俗に反する内容の法律行為には助力しないことになっています。遺言についても、その内容が公序良俗に反する内容であれば、無効となります。例えば、「愛人関係を維持することを条件に、遺産を譲る」というような遺言は無効となりますし、実際に、不倫相手に全財産を譲る旨の遺言を無効とした裁判例もあります[東京地裁昭和58年7月20日判決]。(もちろん、不倫相手に財産を譲れば、無効というわけではなく、諸要素を考慮した総合的な判断が必要となります。)
他の無効原因
詐欺や脅迫されて作成した遺言や錯誤に陥り作成した遺言も、その立証は困難ではありますが、無効とされることがあります。また、2人以上の人が同一の証書で遺言すること(共同遺言)は法律上禁止されているため、例えば、夫婦が連名で作成した遺言などは無効とされることがあります。
おわりに
今回のコラムでは、遺言無効確認訴訟とは何か、よく主張される無効原因について解説しましたが、いかがだったでしょうか。遺言が無効となる原因は様々ですし、中には、法律的・専門的知識がないと判断が難しいものもあるため、「この遺言はおかしいのではないか」と疑問に思ったら、相続問題に精通した弁護士に相談することをオススメします。
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