遺言は本来、ご自身の想いを大切な家族に伝え、残された家族同士・相続人間の争いをなくし、自分の死後を円滑円満なものにするために遺すものです。
しかし、せっかく遺言を作ってもその内容が不適切ならさらなる争いを生んだり、下手をすると作っていなかった方が良かったという事態にもなりかねません。
今回のコラムでは、当事務所で取り扱った相続事件の中で実際にあった、作った遺言が失敗していた事例をご紹介します。
※実際にあった事件ではありますが、プライバシーに抵触しないよう内容を一部改変しております。
※どのケースの遺言書も当事務所で作成したものではありません。
遺産の記載漏れから争いに発展したケース
遺産をすべて包括しておらず、一部記載漏れがあったため、相続開始後に遺産分割調停が必要になってしまったケース。
相続人の中に、前妻との子がおり、遺産分割協議になった場合、争いや手続きが煩雑になるため、遺言書を残していたが、不動産の一部の記載が漏れていました。加えて、遺産の包括条項もなかったため、結局漏れていた不動産を含めて遺産分割協議を実施することになったが、前妻の子の協力が得られなかっため、やむなく法的手続きに移行し、解決しました。
遺言があれば遺言に従って財産をそのまま分けることができますが、遺言がない場合には、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。しかし、この相続人全員というのが、実は意外とハードルが高く、今回のケースの前妻の子にあたる方のように、一人でも協力を得られなければ全員ではないので遺産分割協議自体が進まなくなり、また仮に協力を得られたとしても難航するケースも少なくありません。
本来は、そのような協議が難航することを予測して、それを回避するために遺言を作成したはずでしたのに、記載財産の漏れがあったために、結局、遺産分割協議が必要になり、予想通り争いになってしまったというケースです。
重要ポイント
遺言書を作成するときは、財産のもれがないように事前にしっかり遺産調査を行いましょう。又、将来の予測できない遺産があることを前提として、仮に漏れていたとしても大丈夫なように、包括的な文言を入れるようにしましょう。せっかく遺言書を作っても結局遺産分割協議が必要になり、遺言書があることによって、逆に平穏な遺産分割ができない場合があります。
予備的な文言がなかったために遺言の一部が無効になってしまったケース
受贈者が先に亡くなってしまい、予備的な受贈者を定めていなかったために、その部分が無効になってしまったケース。
他の兄弟に遺産をあげたくなかったため、数人兄弟のうちの2人に遺産の全てを相続させるために遺言を作成していたものの、受遺者(遺言によって財産を譲り受ける人)の一人が遺言者より先に亡くなってしまいました。
受遺者の方が亡くなってしまった時点で遺言を書き換えるべきなのですが、その時には遺言者もすでに認知症を罹患しており、遺言書を書き換えることもできず、結局、遺言の一部は無効となり、遺言者が懸念していた他の兄弟へ遺産が相続されてしまいました。
重要ポイント
遺言書を作成する場合、万が一受遺者が先に亡くなった場合に備えて、予備的な定めを設けておくことが有用です。遺言書は、受遺者の方が遺言者より先にまたは同時に亡くなった場合、当該部分は無効とされてしまうため、予備的に次の順位に遺贈、相続させる人を選んでおく必要があります。遺言書が無効となってしまうとせっかく作成した想いを遺すことできなくなってしまうので、注意が必要です。
遺言書執行者が指定されておらず、家庭裁判所に申立して、遺言執行者を選任して報酬を支払ったケース
遺産のすべてを遺贈するとの遺言書を残したものの、遺言執行者を遺言書で指定していなかったため、単独で手続きができず、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうことになってしまいました。
遺産額も高額であったため、相当額な報酬を支払う必要が生じてしまった。
重要ポイント
遺言書を作成する場合、遺言執行者を定めておくことが有用です。どうしても遺言執行者がいない場合は、最終的に相続開始後に、家庭裁判所に申し立てることによって、遺言執行者は選任できますが、誰が選任されるか不明です。
大切な想いを安心確実に
遺言書は、大事なものであり、しっかり考えるものではありますが、自分で色々調べて考えるよりは、専門家に聞いて作成した方が圧倒的に良いものが作れるでしょう。
遺言書を作るには、実績も大事ですし、遺言者の想いを遺すことを理解してくれる専門家を選ぶことをおすすめいたします。