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相続コラム

第84回相続コラム 不動産の遺贈を例に遺言執行者の有無による手続き違いを解説

第82回相続コラム 遺言をのこす際に指定したい遺言執行者、そのメリット・デメリットを解説」では、遺言執行者を指定するメリットとして、相続に関する手続きがスムーズになるというお話をしました。今回のコラムでは、遺言執行者の有無で、相続手続きにおいてどのような差異が現れるのか、不動産の遺贈を例に解説したいと思います。

 

不動産の遺贈

遺贈とは、遺言書によって自身の財産を他人に譲り渡すことをいいます。

遺言によって、ご自身が保有する不動産も他人に譲ることが可能ですが、不動産を譲り受けると、その名義(不動産登記)を変更する必要があります。

不動産の名義変更手続きは、「この不動産は間違いなく自分の所有物ですよ」と公に示す重要な法的手続きなのですが、この手続きを進める際に、遺言執行者の有無によって手続きの難易度が大きく変わってきます。

以下、具体例をもとに遺言執行者の有無でどう不動産登記手続きが変わるのか解説します。

 

事案例

Aさんの妻は既に他界しており、子もおりません。AさんにはBさんという内縁の妻がいますが、内縁の妻であるBさんには相続権はないので、遺言によって自身が所有している不動産を譲り渡したいと思っています。Aさんの相続人には、Aさんの姉であるCさん、弟のDさんがいます。

 

遺言執行者がいない場合

不動産の名義変更手続きは、“不動産を譲る人”と“不動産を譲り受ける人”とが共同して行うのが原則となります。遺言によって財産を譲り渡す遺贈の場合には、遺言をのこした本人は、手続きを行うことができないので、相続人が代わりに行うことなります。

今回の事例では、Aさんの相続人であるCさんとDさん、および不動産を譲り受けるBさんが共同して名義変更を行うことになります。

実際に、ご自身で名義変更手続きをする方は稀ですので、通常は、司法書士等の専門家に申請をお願いすることになりますが、その場合でも、司法書士等への委任状に、相続人全員の実印を押印してもらい、さらに印鑑証明書が必要となります。

相続人であるCさんもDさんも手続きに協力的であれば問題ありませんが、相続人の中にひとりでも非協力的な方がいれば、手続きがストップしてしまいます。例えば、BさんとCさん・Dさんが不仲であったり、遺贈に納得していない相続人がいるようなケースです。

また、仮に、今回の事例のCさんもDさんも、Aさんが亡くなった時点では既に亡くなっており、Aさんに対する相続人の地位がAさんの甥や姪が代襲しているという場合、相続人の数が一気に膨れ上がる可能性があります。その相続人全員の協力を、Bさんがひとりで取り付けるというのは非常にハードルが高いことは想像に難くないでしょう。内縁の妻であったBさんが、Aさんの兄弟姉妹の子と、普段から連絡を取り合うような仲であるとは限らないからです。連絡先すら知らないというケースも珍しくありません。

まとめると、遺言執行者が指定されていなかった場合、不動産の名義変更手続きには、相続人全員の協力が必要になるため、非協力的な方や、遺贈に納得のしていない相続人がいると、手続きが進まず、また、相続人の数が多くなると、その全員の協力を得るのには手間と時間がかかります。

仮に、どうしても相続人の協力が得られない場合には、Bさんはそのままでは手続きを進めることができなくなってしまうので、家庭裁判所に遺言執行者の選任申し立てをする必要があります。

 

遺言執行者がいる場合

遺言執行者がいる場合には、Bさんは遺言執行者と共同して手続きを進めることができます。つまり相続人であるCさんやDさんの協力等は一切不要となります。また、遺言執行者自体、遺言を執行する義務を負ってますので、非協力的ということは通常ありませんし、弁護士等の専門家が執行者であれば、よりスムーズに手続きが進みます。

ちなみに、Bさんが遺言執行者として指定されている場合、Bさんが単独で名義変更が可能です。ただし、遺言執行者としての義務を負うため、相続人への報告義務等を負うことにはなりますので注意が必要です。

 

おわりに

遺言執行者の有無で遺言執行がどのように変わってくるか具体的事例をもとに解説しましたがいかがだったでしょうか。実際の手続きや、家族間の事情等を考慮すると、遺言執行者の指定がいかに大切かわかりやすいのではないでしょうか。

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