どうしても遺産を渡したくない相続人がいる場合、相続人を「廃除」するという手段があり、それを遺言で行うことも可能です。今回のコラムでは、遺言による相続人の廃除とその注意点について解説したいと思います。
そもそも相続人の廃除とは何か
相続人の廃除とは、暴力を振るったり、虐待を行うなど、著しい非行のある推定相続人の相続権を剥奪する制度です。廃除された推定相続人は、被相続人の遺産を一切相続することができなくなります。
廃除によって相続権を失うのは、排除された推定相続人本人に限りますので、例えば、自身の子を廃除したとしても、廃除された者の子=ご自身の孫は相続権を失わないので、孫は代襲相続という形で遺産を相続することが可能です。
相続人の廃除について詳しくは
「第21回相続コラム 財産を渡したくない相手がいる場合に相続権を奪う相続人の廃除とはどんな制度か」をご覧ください。
廃除が必要な理由
遺産を渡したくない相続人がいる場合、「廃除」という面倒な手続きをしなくても(廃除には、家庭裁判所での審判が必要。)、単に他の相続人に遺産を全部譲る内容の遺言を書けばいいのではないか?という疑問を持たれる方も少なくありません。
結論から言いますと、遺留分を有しない相続人に遺産を譲り渡したくない場合には、上記のような遺言をのこせば十分ですが、遺留分を有する相続人については、遺留分の主張をされると、その範囲で遺産を取り戻すことが可能ですので、単に遺言をのこすだけでは不十分となります。
一定の相続人には、遺留分という最低限度の遺産に対する取り分が法律上保障されているため、仮に、他の相続人に遺産を全て譲り、特定の相続人に遺産を一切のこさなかったとしても、遺留分の範囲で遺産を取り戻されてしまうのです。
つまり、遺留分を有する推定相続人に、文字通り一切遺産を渡さないようにするためには、「廃除」が必要となるのです。廃除は、遺留分を含む一切の相続権を剥奪する、非常に強力な効果を有します。
遺留分について詳しくは
「第18回相続コラム 遺言によって遺産が1円も貰えない!?そんな時の救済手段、遺留分侵害請求とは」をご覧ください。
遺言で廃除する際の注意点
廃除は家庭裁判所での審判が必要
廃除は、推定相続人の遺留分を含めた一切の相続権を剥奪するという非常に強力な法的効果を有するため、家庭裁判所での審判が必要となります。遺言書に相続人を廃除する旨の記載をしたとしても、それだけで効果が発生するものではありません。
相続人の廃除は認められにくい
一般的に、家庭裁判所は相続人の廃除を認めにくい傾向にあります。相続という制度は、のこされた相続人の生活を保障するという側面があるため、遺留分を含めた一切の相続権を剥奪する廃除の判断には、慎重さが要求されるからです。
また、遺言による廃除の場合には、遺言に廃除を認めるべき暴行や虐待の内容を詳細に記載していたとしても、審判の際には、被相続人本人は亡くなっているため、的確な主張や反論をするのが難しく、より廃除の申し立ては認められにくくなります。
遺言執行者が必要
廃除は、家庭裁判所に申し立てを行う都合上、遺言で廃除を行う際には、必ず遺言執行者が必要となります。仮に、遺言執行者を指定していなかった場合には、家庭裁判所に遺言執行者の選任申し立てを行うところからはじまるため、非常に時間と手間がかかります。ですので、遺言で廃除を行う際には、遺言執行者もセットで指定しておくことが大切です。
おわりに
今回のコラムでは、遺言による相続人の廃除とその注意点を解説しましたが、いかがだったでしょうか。遺言による相続人の廃除は認められにくいため、確実に廃除することを望まれる場合には、生前に行うことをオススメします。また、生前であれば、廃除が認められなかった場合に備えて、遺留分対策を行い、相続分を減らすなどの対応をとることも可能です。
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