近年の終活ブームにより、遺言を活用されている方も少なくありませんが、「負担付遺贈」を知っているという方は、少数ではないかと思います。今回のコラムでは、負担付遺贈とは何か、その活用法や注意点を解説したいと思います。
負担付遺贈とは
遺贈とは、読んで字のごとく、遺言によって遺産の全部または一部を譲り渡すことを言います。単なる遺贈とは異なり、“負担付”遺贈は、遺産を譲り渡す代わりに、遺産を譲り受ける人に対して、何らかの負担(義務)を負わせることができます。
例えば、自身が亡くなった後に、「病気を患っている次男の面倒を見る代わりに自宅を含む遺産を全て長男に譲る」というようなものです。
負担付遺贈用の遺言書というものはないので、通常通りに遺言を作成し、その遺言の中身として、負担の内容を記載すると、それが負担付遺贈となります。
例えば、「遺言者は、○○に全ての遺産を遺贈する」、「○○は、前条の負担として△△を行うものとする」のように、負担内容を遺言に追加すると、それが負担付遺贈になります。
負担付遺贈の活用法
負担付遺贈の活用法として、よく見られるのが、「残されるであろう高齢の配偶者が心配なので、その生活の面倒を見る代わりに、遺贈する」、ペットには遺産を譲ることはできないので、「ペットの世話をする代わりに、遺贈する」などです。
無条件で遺産を譲り渡した場合には、残された妻の生活の面倒やペットの世話を、相続人等がしてくれる保障はありません。
しかし、負担付遺贈の場合には、負担=義務が履行されなければ遺産を取得することはできないので、その意味では義務の履行を促す効果があります。
遺産を譲る代わりに、自身の死後に気がかりなことを誰かに託すことができるというのが、負担付遺贈を活用する際のポイントです。
負担付遺贈の注意点
一見すると、便利な負担付遺贈ですが、いくつか注意すべき点があります。
負担には限度がある
遺産を譲り受ける者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います。言い換えると、譲り渡す遺産の価値以上の義務を指定することはできないということです。
譲り渡す遺産と課すべき負担のバランスに配慮する必要があるので注意が必要です。
民法1002条第1項
負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
負担付遺贈は放棄が可能
突如として負担付遺贈が内容として記された遺言が発見された場合に、「遺産をもらえるにしても、そんな負担はできない」という者がいても不思議ではありません。
民法の世界では、契約自由の原則というものがあるように、一方的に義務の負担を押し付けることはできません。つまり、遺贈を受ける者=受遺者には、負担付遺贈を放棄する権利を、法律は認めているのです。
受遺者には遺贈を放棄する権利が認められている以上、遺言書を作成する際には、予め負担付遺贈を受けてくれるか受遺者に確認することをおすすめします。
ちなみに、仮に、受遺者が負担付遺贈を放棄した場合には、負担によって利益を受けるはずの者が、遺贈の目的物を譲り受けることができます。
例えば、「妻の生活の面倒を見てくれる代わりに長男に自宅を譲る」という負担付遺贈をしたが、長男が遺贈を放棄したという場合には、妻が目的となっている自宅を譲り受けることができます。
民法1002条第2項
受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
義務を必ず履行するとは限らない
負担付遺贈は、義務を履行する代わりに遺産を譲り渡すというものではありますが、実は、義務が履行されなくても、遺産を受け取ることができるのです。例えば、「遺産を譲る代わりに妻の面倒を見てほしい」という負担付遺贈の場合、『妻の面倒』は、見続けるものですので、遺産はいわば前渡しのような格好になります。ですので、遺産は受け取っているのに、何からの事情で義務が履行されないというトラブルも少なくありません。
ですので、負担付遺贈を行う際には、受遺者の方と事前によく話し合うのはもちろんのこと、受遺者が義務を履行しているか監督する遺言執行者を選任しておくなどの対応が大切になります。
ちなみに、義務の不履行がある場合、遺言者の相続人や遺言執行者は、相当の期間を定めて義務の履行の催告をすることができます。仮に、その期間内に義務の履行がないときは、その負担付遺贈についての遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
民法1027条
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
おわりに
今回のコラムでは、負担付遺贈とは何か、その活用法や注意点を解説しましたが、いかがだったでしょうか。便利な負担付遺贈ですが、万能というわけではないので、注意点をしっかりと押さえて活用したいところです。
当事務所では、相続に関する幅広い知見を持った弁護士が相続に関する相談を受け付けております。相談は初回無料となっておりますので、相続問題、相続対策、遺言、遺産分割など、相続に関するお困り事は何でもお気軽にご相談ください。