相続した不動産を共同相続人の1人が独占しているというケースはよく耳にします。他の共同相続人から見れば、相続財産を構成する不動産を独り占めされていると、明け渡しや収益の分配を求めたくなるのが心情です。今回のコラムでは、相続した不動産を共同相続人の1人が独占している場合、明渡し請求することはできるのかについて解説したいと思います。
不動産の明渡請求
相続が発生すると、遺言がある場合には、遺言に従って遺産は分配されますが、遺言がない場合には、遺産は法定相続分の割合に従って相続人間の共有状態となります。
この共有状態は、最終的には、遺産分割協議によって、誰が何を具体的に相続するのかが決められ、解消されることになりますが、遺産分割協議が終わるまでは、相続人間の共有状態が続くことになります。
相続財産を構成する不動産についても、相続人が複数いる場合には、その共同相続人間で共有状態となるため、各相続人は法定相続分の割合に従ったかたちで不動産に対する共有持分を有することになります。
そして、法律上、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」(民法第249条第1項)とされているため、仮に、相続財産である不動産に勝手に1人で住んでいる共同相続人がいたとしても、それが持分に応じた使用である限り、当然に明渡しを請求できるわけではありません。
ただし、共有物の管理に関する事項は、共有者の過半数の同意をもって変更することができるので、例えば、共同相続人としてAさん、Bさん、Cさんがおり、そのうちのAさんが不動産を独占的に利用している場合に、BさんとCさんを合わせると2/3の持分(過半数)を有するため、そのBとCの同意をもって明渡しを請求する余地はあります。
なお、その場合でも、判例によると、持分の過半数の同意があれば当然に明け渡しが認められるわけではなく、なぜ明渡しを求めるのかについての理由等を主張・立証する必要があるとされますので、明渡しの請求は容易ではありません。
まとめ
■共同相続人には共有持分があるため、当然に明け渡しを請求できるわけではない。
■共有者の過半数の同意があれば、共有物の管理に関する事項の変更として、明渡しを請求する余地があるが、その場合でも、明渡しを求める理由等の主張・立証が必要となる。
相続分に応じた賃料相当額の金銭の請求
上述のように、相続した不動産を共同相続人の1人が独占している場合に、明渡しを請求することは容易ではありませんが、他の相続人は、相続分に応じた賃料相当額の金銭を不当利得ないし不法行為を理由に請求することは可能です。
ただし、以下のような場合には、賃料相当額の請求も制限されることがあります。
被相続人との間に使用貸借契約関係が認められる場合
被相続人との間に使用貸借契約関係が認められる場合とは、例えば、相続人Aが、被相続人と生前から同居していたというような場合のことです。
そのような場合には、被相続人が自身の不動産にAが無償で住むことを許容していたと考えられ、また、遺産分割協議によって、不動産の所有関係が最終的に確定するまでの間は、その相続人Aに不動産を無償使用させる旨の合意があったと推認されるため、遺産分割完了までは、他の共同相続人は、明渡はもちろん、不当利得や不法行為の損害賠償を原則として求めることはできないという裁判例があります。
配偶者短期居住権が成立する場合
配偶者短期居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、一定期間、無償で住み続けられる権利のことをいいます。
令和2年4月1日から施行された比較的新しい制度なため、馴染みの薄い方も少なくありませんが、配偶者短期居住権が成立する場合には、その権利の特性上、明渡や賃料相当額の請求等もできません。
配偶者短期居住権について詳しくは
「第73回相続コラム 配偶者短期居住権とは何か?配偶者居住権との比較」をご覧ください。
おわりに
今回のコラムでは、相続した不動産を共同相続人の1人が独占している場合、明渡し請求することはできるのかについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。独占されている不動産の明渡しを請求したいというケースでは、遺産分割協議自体も難航していることが少なくないため、争いが長期化・複雑化する危険性もありますので、相続問題に強い弁護士に相談することをオススメします。
当事務所では、相続に関する幅広い知見を持った弁護士が相続に関する相談を受け付けております。相談は初回無料となっておりますので、相続した不動産を共同相続人の1人が独占していて困っているという方はお気軽にご相談ください。相続対策、遺言、遺産分割など、相続に関するお困り事はお任せ下さい。