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相続コラム

第131回相続コラム 最新判例からみる遺留分侵害額請求権を行使した相続人と特別寄与料の負担

先月(令和5年10月26日)、最高裁判所において、「遺留分侵害額請求権を行使した相続人が特別寄与料を負担するのか否か」について、判例が示されました。特別寄与料という制度は、令和元年7月1日に施行された改正法で盛り込まれた、比較的新しい制度であり、最高裁の判例が示されるのは珍しいため、今回のコラムでは、特別寄与料について簡単に解説するとともに、判例の内容をご紹介したいと思います。

 

特別寄与料とは

特別寄与料という制度が創設される前から、寄与分という制度があります。

寄与分は、相続人間の実質的公平を図るべく、相続人が被相続人の療養看護等を行い、遺産の維持・増加に貢献した場合に、その貢献度に応じて、相続分を増加させる制度です。

この寄与分という制度は、相続人であることを前提に、相続分を増加させる制度なため、相続人以外の者がいくら故人に献身的に尽くしてきたとしても、相続人ではないので相続分を増加させる寄与分は意味を成しません。

例えば、被相続人の介護に長年従事してきたのは、長男の妻であったというような場合、いくら献身的に義理の親の介護を行ってきたとしても、義理の親の相続人にはなれないので、遺言等がなければ遺産を一切受け取ることはできません。

仮に、介護されていた義理の両親が亡くなった際に、その子である長男が存命であれば、実際には妻が行ってきた介護を、長男が行ってきた貢献とみなし、長男の相続分を増やし、長男を経由して、妻の貢献に報いるという対応も可能であり、実際、そのような対応をするケースが多く見られました。また、子がいる場合にも、子は被相続人から見ると孫にあたり、代襲相続が可能なため、類似の対応が可能となります。

しかし、長男が既に他界しており、また、その妻には子もいないとなると、上記のような対応もできず、長年義理の親の介護に努めてきた長男の妻は、一切その苦労が報われない結果となってしまいます。

そのような不公平な結果を避けるために、令和元年7月1日に施行された改正相続法では、特別寄与料という制度を設け、療養看護等で遺産の維持・増加に貢献した相続人以外の親族に、相続人に対して寄与に応じた金銭を請求できる権利を与えることとしました。

この新しい特別寄与料という制度の最大のポイントは、相続人以外の親族が主張できるという点です。上記の例のような、義理の親の介護を行ってきた長男の妻という立場のものが、特別寄与料を主張することにより、その貢献度に応じた金銭を、相続人に請求できるようになったのです。

民法1050条第1項
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。

 

特別寄与料の負担

特別寄与料は、相続人以外の親族が、相続人に対して請求します。言い換えると、特別寄与料を負担するのは、相続人ということになります。

そして、相続人が複数人いる場合には、各相続人が相続分の割合に従って負担することになります。

例えば、長男の妻に、特別寄与料として300万円が認められ、特別寄与料を請求すべき相続人として、被相続人の次男と三男と四男の3人がそれぞれ法定相続分通り、各人1/3ずつ遺産を相続していたとします。この場合、長男の妻は、次男と三男と四男それぞれに100万円ずつ特別寄与料を請求できることになります。

仮に、上記の例で、遺言等により、次男の相続分がないものとされ、三男と四男がそれぞれ1/2ずつ遺産を相続した場合には、三男と四男それぞれに150万円ずつ特別寄与料を請求することになります。

民法1050条第5項
相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

 

遺留分侵害額請求権を行使した相続人の負担

上で解説のとおり、特別寄与料の負担は、各相続人がその相続分に従って負担するため、遺言等により相続分がないものとされた相続人は、特別寄与料を負担しません。

では、遺言等により相続分はないものとされたが、遺留分侵害額請求権を行使をした相続人は、特別寄与料を負担するのでしょうか?

遺留分侵害額請求権を行使をした相続人は、遺留分という範囲においては、遺産を取得することになるので、その取得した遺留分の範囲で特別寄与料を負担するのではないかが問題となります。

この点について、最高裁では、「遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しない」と判示されました。

つまり、最高裁は、特別寄与料の負担は、あくまで「相続分」を基準に判断し、遺留分等を基準にはしないと判断しているのです。

その理由としては、最高裁は、各相続人の負担割合は、「相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点から、相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしたものと解される。このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではないというべきである。」と判示しています。

簡単に言うと、『相続分』に従って負担するという基準が、明確で分りやすく、相続人間の公平にも配慮されている。もし、『遺留分侵害額請求権を行使した場合には、遺留分で算定する』等、その都度負担基準を修正することを認めると、特別寄与料をめぐる紛争が複雑かつ長期になってしまうおそれがあるので、相続分以外を基準にしませんよ、ということです。

最高裁決定詳細
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92453

 

おわりに

今回のコラムでは、特別寄与料について簡単に解説するとともに、最新の判例の内容をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。特別寄与料という比較的新しい制度と遺留分とが複雑に絡む事件なため、難しく感じられた方も少なくないのではないでしょうか。

相続の問題、争いの中には、複数の制度が絡み、複雑かつ高度な専門知識が必要となるものも少なくありません。相続問題・争いが複雑になっている場合には、相続専門の弁護士に相談することをおすすめします。

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