前々回のコラムでは、相続放棄について、基本的な事項を解説しました。今回のコラムでは、相続放棄を利用する際の注意点をまとめて解説したいと思います。
相続放棄とは
前々回のコラムのおさらいにはなりますが、相続放棄とは、遺産に対する相続権の一切を放棄することをいいます。
相続放棄は、主に、遺産として多額の負債がある場合に、それらのマイナスの財産を相続したくない場合に利用される制度となります。
相続放棄は、亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申述書等を提出して行います。
相続放棄について詳しくは
「第49回相続コラム 基本から学ぶ相続放棄とは」
をご覧ください。
相続放棄を利用する際の注意点
期間制限に注意する
相続放棄の手続きは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、行う必要があります。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、被相続人が亡くなり、自分が相続人になったことを知った時を指します。一般的には、被相続人が亡くなった事実を知った時と考えても差し支えありません。
一般的に、遺産整理は、49日後に行われることが多いのですが、相続放棄をする場合には、3ヶ月という短い期間制限があるため、多額の負債の相続が見込まれる場合、または、多額の負債の存在が疑われる場合には、早めに遺産の調査を行い、準備することをおすすめします。ご自身に時間的余裕がない場合には、弁護士などに任せてしまう手もあります。
どうしても期限に間に合わない場合には、家庭裁判所に申し立てを行い、期間延長を請求するなどの対応が必要です。
遺産に手をつけない(法定単純承認に注意)
相続が発生し、相続放棄が可能な期間内であったとしても、遺産を使い込んでしまったり、遺産の一部を隠してしまったりすると、法律上、相続する意思がありとされ、相続放棄ができなくなってしまいます。これを法定単純承認といいます。
相続放棄を利用する予定があったり、利用を検討している段階では、遺産には手をつけないように注意する必要があります。
多額の負債はあるけど、どうしても手放せない財産がある場合には、限定承認を活用する方法もありますので、弁護士に相談することをオススメします。
参考:「第13回相続コラム 弁護士が解説する意外と知らない限定承認の活用法」
相続放棄による順位の変動に注意する
相続放棄をすると、その放棄をした者は、はじめから相続人ではなかったことになります。相続放棄の効果は、放棄をした人限定という点が注意するポイントになります。
例えば、ある人が多額の借金を残して亡くなり、相続人として、その子である長男・長女の2人がいたとします。仮に長男が相続を放棄したとしても、その効果は、長女には及ばないので、相続放棄をしていない長女が全ての借金を背負う結果になってしまいます。
また、仮に上記の事例で、長男・長女の両方が相続放棄したとしても、亡くなった方に両親や兄弟姉妹がいる場合には、相続放棄によって、相続の順位が変動し、両親や兄弟姉妹が相続人となってしまうことがあります。
相続放棄の利用自体は、放棄を選択する者単独で可能ですが、他の相続人や次順位の相続人にも放棄する旨を告げ、配慮することが大切になります。
仮に、次順位の相続人が高齢であったり、疎遠なため迷惑はかけたくない等の事情がある場合には、限定承認を活用するという手段もあります。限定承認の手続きは複雑なため、弁護士に相談の上、利用することをおすすめします。
参考:「第13回相続コラム 弁護士が解説する意外と知らない限定承認の活用法」