弁護士として数多くの相続案件に携わり、また相続に関する相談を受けていると、「遺産分割協議ってしないとダメなのですか?」と質問されることが多くあります。実際に、相続が発生しているにも関わらず、不動産の名義などをそのまま放置されている方も少なくありません。今回のコラムでは、遺産分割協議の必要性について解説したいと思います。
そもそも遺産分割協議とは
相続が発生すると、亡くなった方の遺産は、相続人に受け継がれることになりますが、遺言等がなければ、それらの遺産は、法律で定められた割合(法定相続分)に従って、相続人間で相続することになります。
ただ、法定相続分について、法律では、抽象的な割合を定めているだけですので、具体的に、どの相続人が、何をどの割合で相続するのかは不明なため、相続人間の話し合いによって最終的な帰属を決める必要があります。その相続人間の話し合いを、遺産分割協議といいます。
遺産分割協議について詳しくは
「第38回相続コラム 基本から解説する遺産分割協議とは何か」
をご覧ください。
遺産分割協議はしないとダメなのか
遺産分割協議は、その結果に基き、財産を分配し、様々な相続手続きを進める前提となるため、非常に大切な手続きです。しかし、法律上、遺産分割協議を行うことは義務ではなく、その期限についての定めもなければ、協議を行わないことに対する罰則もありません。
ただし、遺産分割協議を行わなかった結果、法律上要求されている手続きが進まず、その結果、罰則の適用や不利益を受ける危険性はありますので注意が必要です。
遺産分割協議をしないことのデメリット
相続登記の義務化による罰則
2021年に成立した改正法により、相続登記が義務化され、改正法が施行される2024年4月1日以降には、相続登記を怠ると罰則が適用される危険性があります。
相続登記とは、実家や土地などの不動産を相続した際に、その名義を変更する手続きをいいます。現代の日本が抱えるいわゆる「所有者不明土地問題」に対応すべく、相続によって不動産所有者が相続人に変わった場合には、名義変更手続きを行うことが義務化されました。
相続登記を申請する際には、多くのケースで、遺産分割協議書が必要書類とされるため、遺産分割協議を行わず、その結果、必要な登記がなされなかったために罰則の適用を受ける危険性があります。
少し専門的なお話しになりますが、遺産分割協議をしなくても、そのまま相続人の共有不動産という形で相続登記することは可能です。しかし、共有名義の不動産は利用・処分が難しく、最終的に、処分する際に、持分の移転登記が必要となると、二重に登記費用がかさんでしまう危険性があります。また、共有持分について、更に相続が発生すると、共有者がネズミ算式に増えていくため、かえって問題が複雑化するおそれもあります。ですので、罰則の適用を回避しつつ、費用を抑え、後の管理の簡便さ等を踏まえると、しっかりと遺産分割協議をし、その上で相続登記をすることをおすすめします。
相続登記義務化について詳しくは
「第11回相続コラム 弁護士が語る相続登記の義務化(令和3年4月21日)」
をご覧下さい。
相続人が増えて問題が複雑化する危険性
遺産を最終的に利用したり処分するためには、遺産分割協議によって、その帰属を確定される必要があります。遺産分割協議が未了の状態で、相続人が亡くなると、その相続人の権利がさらに相続され、相続人の数がどんどん増えていってしまいます。
遺産分割協議が有効に成立するためには、相続人“全員”の合意が法律上必要とされるところ、相続人の数が増えれば増えるほど、その成立が困難になってしまいます。
例えば、ある方が亡くなり、その相続人として2人の兄弟がいたとします。その場合には、兄弟2人で遺産分割協議を行い、その兄弟間で合意が形成されさえすれば、有効な遺産分割協議となります。しかし、もし、その兄弟も亡くなり、兄弟それぞれ、配偶者や複数の子がいた場合には、それらの者全員で遺産分割協議を行う必要があります。兄弟同士では容易な話合いだったのが、義理の姉妹、従兄弟同士の協議となり、協議で合意を形成するハードルがぐっと高くなります。
相続税を納付する際に高額になる危険性がある
相続税を申告する際、遺産分割協議が未了の状態でも、申告自体は可能です。ただ、遺産分割協議が未了の状態で相続税を申告すると、税制上、不利に扱われることが多数あります。
例えば、相続税についての小規模宅地等の特例や配偶者控除の適用は、原則として相続税申告期限(10ヶ月)までに遺産分割が成立していることが条件となっています。また、遺産分割が成立していなければ未分割で一旦は申告・納付をしなければならず、特例等の適用がない状態での高額な納付金の準備が必要になってしまいます。
遺産分割協議で困ったら弁護士へ相談
遺産分割協議や、相続登記など、相続に関する手続きは、つい先延ばしにされがちですが、問題を先延ばしにして得することは基本的にありません。かえって問題が複雑化し、結果、解決に手間も時間もかかってしまうというケースの方が多くあります。
つい先送りしてしていた遺産分割協議や、長年放置された相続した不動産などがある方は、お盆という家族・親族が集まる機会に話し合ってみるのはいかがでしょうか。
家族間での解決は難しい問題、判断に迷う問題、または具体的な手続き等で悩んだら、専門の弁護士に相談することもひとつの手段です。
当事務所では、相続問題に精通した弁護士が初回無料にて相談を実施しております。相続でお悩み・お困り事がありましたら、お気軽にご相談ください。