相続放棄をすると、故人のプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、一切相続することはなくなるため、基本的には、故人の借金を相続人が支払う必要はなくなります。ただし、相続放棄をしたとしても、その放棄の効果は確定したものではないため、後に覆るケースもないとは言い切れません。今回のコラムでは、相続放棄の受理とその有効無効の違いについて解説したいと思います。
相続放棄の受理と確定的に有効かどうかは別問題
相続放棄をするためには、家庭裁判所に申述し、一定の手続きを行う必要があります。その際に、形式的な不備があれば、当然、相続放棄は認められません。しかし、逆に言えば、形式的な不備さえなければ、不備が見つからなければ、相続放棄は受理され、認められてしまうのです。
例えば、相続発生後、相続放棄をする前に、「遺産をこっそり使い込んでいた」、「遺産の一部を隠していた」というような場合には、その使い込みや隠匿行為は、相続する意思があるとみなされる行為(単純承認)にあたるため、相続放棄をすることは本来できません。
しかし、その使い込み等の事実を隠したまま、相続放棄を申請し、家庭裁判所に受理された場合、形式的には相続放棄がなされてはいますが、後に使い込み等の事実が発覚すると、相続放棄の効果が覆り、その効果が無効となることがあります。
少し専門的なお話しにはなりますが、通常の裁判では、訴えた者と訴えられた者が、それぞれ自己の主張を戦わせ、双方の主張や証拠を吟味した結果、裁判所が判決という結論を出します。その判決という結論は、双方の言い分や証拠に基いて判断した結果なため、確定的な効果となります。相続放棄の申述については、家庭裁判所で行う手続きではありますが、借金を返して欲しい債権者の主張を聞いたり、証拠調べがなされるわけではないので、通常の裁判のような確定的な効果が得られるわけではなく、それは常に覆る可能性があります。
相続放棄の受理と債権者への対応
相続放棄が受理された以上、形式的には、相続はしていないことになっているため、仮に、債権者から故人の借金の返済を求められたとしても、相続放棄したことを理由に、支払を拒むことができます。
詳しくは、
「第65回相続コラム 相続放棄と債権者への対応について解説」
をご覧ください。
ただし、稀なケースではありますが、債権者が借金の返済を求めて訴えを提起し、その訴訟の中で、相続放棄の無効を主張されることはあります。ですので、裁判所から訴状が届いたようなケースでは、「相続放棄してるから関係ない」と無視してはいけません。
あえて遺産を使い込んだり、隠したりするつもりはなかったとしても、「つい債権者の口車にのって、一部借金を弁済していた」、「単純承認などを知らずに遺産を使ってしまっていた」というようなケースも少なくありませんので、「相続放棄が受理されているから絶対大丈夫」と過信することは禁物です。債権者や他の相続人から訴えられた場合には、しっかりと対応する必要があります。裁判となると専門的知識が要求されるため、相続放棄後に、債権者等から訴えられた場合には、相続に強い弁護士にすぐに相談することをオススメします。
まとめ
相続放棄が受理されると、形式的には、相続放棄がなされているため、借金等の取立てを拒否することができます。ただし、相続放棄が受理されている場合でも、その効果は絶対ではないため、訴えを起こされたような場合には、相続放棄が無効となることがあります。
当事務所では、相続問題に強い弁護士が、相続に関する無料相談を実施しております。相続放棄後に債権者からの取立てに困っている、または、訴えられてしまった等の場合や、そもそも、後に問題が生じないように相続放棄をしたい等、相続に関することでお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。