相続分が共同相続人以外の第三者に譲り渡された場合に、相続人は取戻権と呼ばれる特別な権利を行使して、相続分を取り返すことができます。今回のコラムでは、相続分の取戻権とは何か、その前提として、相続分の譲渡について解説したいと思います。
相続分は譲渡が可能
遺産の取り分とも言える相続分は、財産的価値があるため、実はこれを他人に譲り渡すことができます。
相続分の譲渡については、特に様式・方式の決まりはありませんので、譲渡人と譲受人の合意のみで成立します。他の相続人の同意等は不要となります。
相続分の譲渡は、共同相続人間で行われるのが一般的ですが、譲り渡す相手は共同相続人以外の第三者でも構いません。また、譲渡は有償でも無償でも可能です。有償で譲り渡すと「相続分の売買」、無償で譲り渡すと「相続分の贈与」となります。(譲受人が誰なのか、有償・無償等の違いにより税金についての取り扱いが変わってきますので注意が必要です。別のコラムで解説したいと思います。)
ポイント
■相続分は譲り渡すことが可能
■相続分の譲渡には他の相続人の同意は不要
■共同相続人以外の第三者にも譲り渡すことができる
相続分の取戻権とは
相続分は、共同相続人以外の第三者に譲り渡すことが可能であり、その際に、他の共同相続人の同意等は不要なのは、上で解説したとおりです。
相続分を譲り受けた人は、相続分を取得したことにより、いわば相続人と同様の資格を得たことになるため、遺産分割協議に参加することができます。
仮に第三者に相続分が譲り渡された場合には、家族以外の赤の他人が遺産分割協議に参加することになってしまうため、ただでさえ争いの元になりやすい遺産分割協議が、より複雑化するおそれがあり、このような状況を好ましくないと思う相続人が多いのではないでしょうか。また、大切な遺産を家族以外の者の手に渡したくないというケースもあるかと思います。
そこで、法律では、取戻権という特別な権利を定め、相続人に、共同相続人以外の者から相続分を取り戻すことを認めているのです。
民法第905条1項
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
取戻権の行使について注意点
取戻権は、譲り受けた人の意思とは無関係に、いわば強制的に取り返すことのできる非常に強力な権利ですので、行使できる期間は譲渡時から1ヶ月とかなり限定されています※。
※この1ヶ月の起算点は、いつなのかについては争いがありますが、一般的に、譲渡時から1ヶ月と考えられています。
また、取り戻す際には、相続分の価額だけではなく、譲渡の際にかかった費用も含めて支払う必要があるので注意が必要です。強制的に取り戻す以上は、相手に負担をかけないという趣旨です。
おわりに
今回のコラムでは、相続分の取戻権とは何か、その前提として、相続分の譲渡について解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続分が赤の他人に譲り渡されてしまうケースというのは、多くはありませんが、万が一、譲渡されてしまった場合には、取戻権によって取り返すことができることは知っておきたいところです。
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