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相続コラム

第139回相続コラム 遺産分割前に凍結された預金口座からお金を引き出す方法

口座の名義人の方が亡くなると、口座は凍結され、遺産分割協議が終了するまでは、相続人が単独で預金の払い戻しを受けられないことがあります。しかし、遺産分割が終了する前であっても、葬儀費用の支払や当面の生活費などのためにお金が必要になるケースは少なくありません。今回のコラムでは、遺産分割前に凍結された預金口座からお金を引き出す方法について解説したいと思います。

 

預貯金の相続

口座の名義人が亡くなると、口座の預金は相続人に相続されることになるところ、各相続人は遺産分割前であっても各自の相続分についての払い出しを行うことが可能という時期がありました。

しかし、平成28年12月19日の最高裁の決定により、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」と判断されました。

つまり、預金口座のお金は、相続の発生により自動的に分割されるわけではないので、「遺産分割協議できちんと話し合って分けなさいよ」と判断されたということです。

そのことから、銀行実務上、口座の名義人が亡くなると、不正出金等を防ぐために、口座は凍結され、出金や振込が一切できなくなります。

そして、その口座の凍結を解除するためには、遺言書がない場合には、原則として、遺産分割協議書の提出が要求されるのです。

 

預貯金の仮払い制度

口座の名義人について、相続が発生すると、口座は凍結されてしまいますが、葬儀費用の支払や当面の生活費などのためにお金が必要なケースは少なくありません。

そのようなケースに対応するために、2019年に法律が改正され、預貯金の仮払い制度というものが創設されました。

預貯金の仮払い制度を利用すると、遺産分割が終了する前であっても、一定額を口座から引き出すことが可能となります。

 

出金可能な額

預金を払戻すことのできる額は金融機関毎に上限が設けられ、「預金額の3分の1に法定相続分をかけた額」または「150万円」のどちらか低い方が上限となります。

例えば、被相続人がA銀行に1200万円預けており、その相続人として2人の子がいたといます。

子それぞれの法定相続分は1/2なため、「預金額の3分の1に法定相続分をかけた額」は「1200万円×1/3×1/2」=200万円となりますが、「150万円」と比べると「150万円」の方が低い額となりますので、子それぞれがA銀行から引き出せる額は150万円までということになります。

なお、この計算は、「金融機関ごと」に適用されるので、複数の金融機関に預金口座があった場合にはその分出金可能な金額が増えることになります。

民法第909条の2
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

 

払い戻しの際の必要書類

預貯金の仮払い制度を利用する際には、以下ような書類を提出する必要があります。

■被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本または法定相続情報一覧図
■相続人全員の戸籍謄本
■引き出す人の実印と印鑑証明書

金融機関によって取扱いが異なる場合がありますので、事前に金融機関に確認することをおすすめします。

 

預貯金の仮払い制度を利用してもお金が足りない場合

預貯金の仮払い制度は、利用するにあたって特別な要件等がなく利用しやすい反面、出金額に制限があります。

預貯金の仮払い制度を利用してもお金が足りない場合には、家庭裁判所で「仮処分」という手続きを行うことで、お金を引き出せる可能性があります。

仮処分とは、家庭裁判所への申請によってさまざまな命令を出してもらえる手続きです。仮処分が認められれば、預貯金の仮払い制度以上の額を引き出すことが可能となります。

ただし、仮処分を申請する際には、前提として、遺産分割調停や審判の申し立てが必要であったり、仮処分の要件を満たすことを裁判所に説明したりする必要があるため、専門の弁護士に相談することをオススメします。

家事事件手続法第200条3項
前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

 

おわりに

今回のコラムでは、遺産分割前に凍結された預金口座からお金を引き出す方法について解説しましたが、いかがだったでしょうか。

当てにしていた被相続人の預金口座が凍結され、葬儀費用の支払や当面の生活費に困った場合には、今回解説した預貯金の仮払い制度を思い出してください。

相続人同士が不仲であったり、意見の食い違い等により遺産分割が難航しそうなケースでは、遺産分割調停を申し立てつつ、仮処分により一定額の遺産を確保するという手段もありますが、そのようなケースでは、複雑な手続きが必要になるため、相続に強い専門の弁護士に相談することをおすすめします。

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