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相続コラム

第71回相続コラム 令和2年4月1日施行の配偶者居住権について解説

社会の高齢化に伴い、相続に関する様々な問題が増加しており、残された配偶者が、住み慣れた自宅で安心して暮らすことができるように「配偶者居住権」という新しい制度が創設されました。配偶者居住権は、令和2年4月1日から施行された比較的新しい制度なため、馴染みのない方も多いのではないでしょうか。今回のコラムでは、配偶者居住権とは何かについて解説したいと思います。

 

配偶者居住権とは何か

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった配偶者が所有していた建物に、一定の要件のもとに、終身または一定期間、無償で住み続けられる権利のことをいいます。

例えば、夫が亡くなり、妻が配偶者居住権を取得する条件を満たしていた場合には、その妻は、夫が所有し、一緒に居住していた自宅に、そのまま住み続けることができます。

もちろん、妻が、夫の所有物であった自宅の権利を全て相続した場合には、当然、そのまま自宅に住み続けることが可能です。ただ、遺産構成や他の相続人との関係などから、自宅の所有権等を完全に取得するのが難しいケースも少なくありません。

この配偶者居住権の最大のポイントは、建物の価値(権利)を「自宅に住む権利(居住権)」と「それ以外の権利(所有権)」に分離し、居住権を配偶者に相続させ、所有権を他の相続人に相続させるというような柔軟な遺産分割を可能にした点にあります。つまり、自宅に住み続けるだけであれば、何も所有権自体を相続しなくても、そこに住み続けることを可能とする居住権さえあれば足りるため、新たな配偶者居住権の創出により、遺産分割の選択肢を増やしたと言えます。

 

具体例でみる配偶者居住権

少しわかりにくい制度であるため、具体例で解説します。

 

具体例

ある人(夫)が亡くなり、その相続人として、妻と子がいたとします。残された遺産として、4,000万円相当の自宅と、預金が同じく4,000万円あったとします。(事例を簡潔にするために敷地の権利関係は省略)

夫の法定相続人は、妻と子の2人であり、それぞれ1/2の相続分を有します。遺産は合計すると8,000万となりますので、妻も子も4,000万円分相続することになります。

ここで、仮に、妻が、亡き夫と一緒に暮らしていた自宅にそのまま住み続けたいと考え、自宅を相続したとします。自宅は4,000万円の価値があるため、自宅を相続すると、残りの相続分は0となります。ですので、預金4,000万円は、全て子が相続することになります。そうすると、妻は、自宅に住み続けることは可能ですが、当てにしていた預金を一切相続できないため、生活が困窮してしまうおそれがあります。

逆に、生活費のために預金を相続すると、子が自宅を全て相続することになり、子との関係によっては、高額な賃料を請求されたり、最悪、自宅を追い出されることにもなりかねません。子に自身の母親を追い出すような意図はなかったとしても、現金が必要になり、つい実家を売却してしまうというケースも考えられます。

 

配偶者居住権の利用

上記のようなケースで活用を期待されているのが配偶者居住権となります。

上記のケースで、配偶者居住権が成立すると、建物の価値を、居住権と所有権に分けて考えることができます。そして、例えば、配偶者居住権が2,000万円と評価されると、所有権は、居住権の制限付きの権利となるため、元の価値から居住権分の価値を差し引き、2,000万円と評価できます。

■完全な所有権の価値=4,000万円
■居住する権利(配偶者居住権)=2,000万円
■制限付きの所有権の価値 =完全な所有権の価値-居住する権利=2,000万円

妻が、所有権ではなく、この配偶者居住権を取得すると、同権利によって、引き続き自宅に住み続けることが可能となります。そして、配偶者居住権は2,000万相当と評価されたため、預金も2,000万円分相続することができます。他方で、子は、預金2,000万円と、制限付きではありますが、実家の所有権を取得することができます。

妻:配偶者居住権2000万円+預金2000万円=4000万円分相続
子:所有権2000万円+預金2000万円=4000万円分相続

このように、配偶者居住権を活用することによって、残された配偶者が自宅に住み続けることを保障しつつも、当面の生活費も確保可能となり、遺産分割が円滑に進むことが期待されています。

 

配偶者居住権が成立するための要件

 

亡くなった方の法律上の配偶者であること

残された配偶者の方は、亡くなった被相続人の法律上の配偶者であることが必要です。
いわゆる事実婚の配偶者、内縁関係では配偶者居住権は認められません。

 

配偶者の方が、亡くなった方が所有していた建物に、相続開始時に居住していたこと

相続開始時点において、実際に居住していたことが必要になります。別居などをしていた場合には成立しません。

 

亡くなった方の所有建物または共有建物であること

被相続人の単独所有建物であるか、または被相続人と配偶者との共有建物である必要があります。被相続人と配偶者以外の者との共有建物の場合には成立しません。

 

遺産分割協議、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかの方法で配偶者居住権を取得したこと

遺産分割協議で、配偶者居住権を他の相続人との協議で認めてもらったり、生活に困らないように遺言等で予め配偶者居住権を残してもらう方法の他に、家庭裁判所の審判で認めてもらうことができます。家庭裁判所の審判では、配偶者居住権を認めることが、生活のために特に必要がある場合に、所有者の被る不利益等を考慮して判断されます。

 

まとめ

配偶者居住権を活用することにより、柔軟な遺産分割が可能となり、遺産分割協議をスムーズに行うことが可能となります。また、今回のコラムでは解説しませんでしたが、配偶者居住権の活用の仕方次第では、二次相続時に大きな節税効果も見込めるため、専門家に相談の上、上手に活用したいところです。

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