前回のコラムでは、遺言とは何かについて、『遺書』と比較しながら、基本的なことから説明しました。そのおさらいにはなりますが、遺言とは、故人の最終意思を示すもので、法律で定められた形式で作成することによって、様々な法的効力を持つものをいいます。
よく知られた遺言の効力として、ご自身の遺産を相続人等に譲り渡すというものがありますが、遺言には、それ以外にも様々な法的効力が認められています。今回のコラムでは、遺言でできること、遺言の効力についてまとめて解説したいと思います。
遺産相続に関すること
相続分の指定
遺言で特に指定がなければ、相続人が複数いる場合、それぞれの相続人の遺産の取り分(相続分)は、法律で定められた割合(法定相続分)に従って分配されます。
例えば、ある人(夫)が亡くなり、その相続人には、妻と長女、次女がいる場合、法定相続分に従って遺産を分配すると、配偶者である妻は2分の1、長女と次女は、それぞれ4分の1の遺産を受け取ることになります。
遺言を作成すると、遺言者の自由に、誰がどんな割合で相続するのかを指定することができます。例えば、上記の例でいうと、「長女は妻の面倒を見てくれているので、妻の分も含めて4分の3相続し、次女は4分の1」など、法定相続分とは異なる自由な割合で指定することができます。
ただし、遺留分を侵害することになると、後の争いの火種をのこす危険性がありますので注意が必要です。遺留分について詳しくは、「第18回相続コラム 遺言によって遺産が1円も貰えない!?そんな時の救済手段、遺留分侵害請求とは」をご覧下さい。
また、相続分を自ら指定するのではなく、第三者に指定することを委託することも可能です。
遺産分割の方法の指定
遺言によって、遺産分割の方法を指定することや、相続分と同様に、第三者に指定することを委託することができます。
『遺産分割の方法の指定』は『相続分の指定』と似ていますが、相続分の指定は、抽象的な遺産の取り分・割合の指定であるのに対して、『遺産分割の方法の指定』は、具体的な分け方の指定となります。
例えば、「自宅や預金は妻に相続させ、家業に必要な財産は長男に相続させる」など、何を誰にどのように相続させるのか、具体的な分け方を指定することができます。
また、一定期間の間(5年以内)、相続人に対して遺産分割を禁止することも可能です。例えば、相続人の中に、未成年の子がいるような場合に、「その子が成人してから遺産分割をして欲しい」というようなケースで利用されます。
相続人以外の者に財産を譲る
遺言がない場合には、遺産は相続人に相続されるのが原則ですが、遺言を作成することによって、相続人以外の者に財産を譲ることができます。
例えば、そのままでは相続人になれない内縁の妻や夫、お世話になった人や支援したい団体などに、遺言を作成することによって、財産を譲り渡すことができます。
相続人の廃除・廃除の取消
相続人になる予定の方(推定相続人)の中に、自分を虐待したり、重大な侮辱をした者がいる場合に、その推定相続人を相続人から除外する手続きを相続人の廃除といいます。通常、相続人の廃除は、被相続人が家庭裁判所に申立てを行い、手続きをする必要があるのですが、遺言によって相続人を廃除することもできます。遺言によって相続人を廃除した場合には、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立てを行うことになるので、遺言書には「誰の相続権をどんな理由で廃除するのか」を書き残しておくことが必要になります。また、逆に、既に相続人として廃除されている者について、その廃除の取消を行うことも可能です。
相続人の廃除について詳しくは「第21回相続コラム 財産を渡したくない相手がいる場合に相続権を奪う相続人の廃除とはどんな制度か」をご覧ください。
その他の遺産相続に関すること
少し専門的な事項にはなりますが、特別受益の持戻の免除や相続人相互の担保責任の指定等も遺言によって行うことが可能です。
生前贈与などの特別受益は、相続開始時に、相続財産に加え(持戻)、相続分を計算することになりますが、その持戻を遺言によって免除することができます。免除された相続人としては、その分、相続分が増加することになります。特別受益について詳しくは「第43回相続コラム 遺産分割協議で考慮すべき特別受益とは」をご覧ください。
相続人相互の担保責任の指定とは、取得した相続財産に欠陥があった場合、相続人間で価値の減額分を補い合う(担保責任)のですが、その担保責任について、どの相続人がどれだけ負担するかを指定することをいいます。
身分に関すること
子の認知
婚姻関係にない女性との間にできた子を遺言で認知することができます。婚姻関係にない女性との間にできた子は、そのままでは父子間に親子関係が存在しないものと法律上扱われますので、親子関係を発生させるためには認知という手続きが必要になります。その認知を遺言で行うこともできます。認知された子は、父子関係発生により、法定相続人となるため、遺産を相続することが可能となります。
未成年後見人の指定、後見監督人の指定
遺言書では、未成年後見人や後見監督人を指定することもできます。例えば、残された子が未成年者であり、遺言者の死亡により親権者が不在となるような場合には、後見人を指定することで未成年の子の財産管理等を委ねる事ができます。また、その後見人を監督する、後見監督人を指定することもできます。
遺言執行について
遺言の効力が発生する時点では、遺言を書いた遺言者本人は亡くなっているので、自身の手で遺言の内容を実現することはできません。そこで、遺言者に代わって、遺言の内容を実現する遺言執行者を指定することができます。遺言執行者を指定するか否かは、遺言者が自由に決めることができますが、子の認知や相続人の廃除を遺言で行う際には、必ず遺言執行者を指定しなければなりません。
おわりに
遺産を誰にどのように相続させるのか指定するだけではなく、様々な効力を持たせることができるのが遺言になります。自身の死後に残されるご家族が安心して暮らせるように、また、残された相続人間で無用な争いが起こらないために、上手に活用したいところです。
当事務所では、相続対策として、どのような遺言を作成したらいいのか、皆様のご家族が安心して暮らせるよう遺言を作成するにはどうしたらいいのかなど、遺言作成のサポートをしています。また、遺言を発見してお困りの方や、遺言がない場合の遺産分割協議でお困りなど、相続に関することでお悩み・お困り事がありましたら、何でも当事務所までご相談ください。初回相談は無料となっておりますので、悩んだら、まずはお気軽にご相談ください。