終活ブームということもあり、弁護士という職業柄、「遺言書はいつまでに書けばいいのですか?」という相談を受けることがよくあります。「遺言は元気なうちに書く」のが鉄則ですが、もう少し正確に言うと、「認知症になる前に書く」というのが正解となります。今回のコラムでは、遺言書を認知症になる前に書くべき理由について解説したいと思います。
認知症になると遺言が無効となるリスクが高まる
遺言が有効に成立するためには、法律上、遺言に求められる条件を満たす必要がありますが、大前提として、遺言作成時に、自身の遺言作成行為がどういうものか、その結果として、どのようなことが起こるのかを判断する能力が必要とされます(法律用語では「遺言能力」といいます)。
この遺言能力を欠く状況で作成された遺言は、たとえ法律上要求される遺言の形式を満たしていたとしても、無効と判断されてしまいます。
認知症と一口に言っても、その程度は様々であるため、認知症になっているからといって、必ずしも遺言能力がないと判断されるわけではありませんが、認知症発症後に作成された遺言は、遺言作成に必要な判断能力を欠くとして、無効となるリスクが高まります。
認知症発症後の遺言は争いのもと
そもそも遺言をのこす理由は、本来、残されるであろうご家族・相続人が、自身の死後に安心して暮らせるよう、または、自身の死後の手続きを簡便にし、相続人の手間や労力を省くことにあります。
しかし、認知症発症後に作成された遺言については、常に「遺言作成時に遺言能力がなかったのでは?」と疑義が生じることになり、せっかく残されたご家族のために遺言を作成したはずなのに、かえって遺言能力の有無をめぐる争いの火種を残すことにもなりかねず、本末転倒となってしまう危険性があります。
認知症になる前に備える
人生100年時代などと言われていますが、平均寿命と、人が自立した生活を送れる期間=健康寿命との間には、男女間で差はあるものの、およそ10年くらいの開きがあると言われいます。
たとえ肉体的には健康に過ごせていたとしても、いざ「遺言を書こう」とした時に、遺言能力を欠いていれば、無効となってしまったり、かえって相続人間の争いを誘発することにもなりかねません。
厚生労働省が発表する推計によると、2025年には認知症の有病者数が約700万人となり、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症する試算となっています。認知症予備軍も含めると、さらにその数は増えていくことが予想されます。認知症はもはや“他人事”ではなく、“自分事”としてとらえ、心身ともに元気なうちに遺言をのこすことが大切となります。
おわりに
終活、相続対策の一環として、遺言をのこすことはとても大切なことです。そして、その遺言は、認知症になる前に書くことが重要です。また、認知症に備えるという意味では、自身の生存中の財産管理等のために、親子信託などの民事信託を活用することも重要です。
親子信託について詳しくは
「第26回相続コラム 認知症になる前に利用したい親子信託(民事信託)のススメ ~導入編」をご覧ください。
当事務所では、相続対策、相続問題、民事信託の活用など、広く相続に関する相談を受けております。「認知症になる前に遺言をのこしたい」、「認知症対策は何をしたらいいのか」など、相続に関するお悩みのある方は、初回相談無料となっておりますので、お気軽にご相談ください。相続問題に精通した弁護士が、皆様のお悩みに真摯に対応いたします。